獄都事変 | ナノ


「ちょっと待った」/斬島、谷裂  




どうしてかお互いを引っ張り合いながら、しかし斬島と谷裂は声を合わせて言った。

「「鍛錬に付き合って下さい」」

とのことだった。いやあ。それは構わないけれど、「谷裂、俺が先だ」「ふざけるな」「ふざけてなどいない」と、揃っている声と相反して方針は固まっていないらしい。彼らは互いが互いに後ろへ引き合い、紫と青がごちゃごちゃともつれ合っている。
どうしたものかと私は考えて、わざとらしく両手を打った。

「じゃあ私は、逃げる亡者の役ね。制限時間は十五分」

「「え」」とまたふたりの声が揃って、私はと言えば彼らに背を向けて走り出した。開いている窓から外へ飛び降りる。彼らはきっと顔を見合わせて、私の言葉と行動、突きつけられた状況を冷静に分析して、弾けるように違う方向へ向かって地面を蹴ったに違いない。
どこへ逃げようか。
敷地内からは出ないとして、あまり館の中に入るのもほかの獄卒に迷惑がかかりそうだ。なにより、狭いとそれだけ私が不利だし、ふたりで息を合わせてかかってこられたら正直とんでもなくしんどい。
館の屋根でしばし考えて、たっぷり三分が経過したところで移動した。



先輩は、こういう遊びは誰より上手い。俺達は一向に足取りを掴めていないが、先輩は俺達がどう動いているのか把握しているに違いない。館を大体一周して斬島と合流したが、夜子先輩の影すらも見つけることはできなかった。
既に五分が経過している。斬島は、周囲を警戒しながら俺に言った。

「隠れているのだろうか?」
「先輩は身動きが取れなくなるようなところには隠れないはずだ」
「それなら、屋敷の中で比較的広くて、ほかの獄卒の迷惑にならない場所はどうだ?」
「いや、屋敷の中とは限らない」
「それなら、俺は外に行く」

それが良さそうだ。
俺は館の中、斬島は館の周辺を探す。
ひとつ頷いて、散り散りに先輩探しを再開した。
既に七分が過ぎている。



谷裂と合流してから二分後に、どうやら屋根の上に居たらしい痕跡を発見した。
先輩の腕であれば痕跡を消すことくらいわけないだろうに、こうして残っているのは、ヒントのつもりなのかもしれない。とは言っても、どこをどうして先輩を追うべきか、どういう推理をするべきか、探偵のようなことをするのは、どうにも難しい。ただ、今確かなことは、もう先輩は屋根にはいないということだ。
高いところから、ぐるりと屋敷の周りを見回した。
無論見つかったりはしない。
ただいつも通りに風に揺られる木々があったり、洗濯物があったりするだけ。先輩を探す、なんて、相当難しいことではないだろうか。普通にやっていて、俺と谷裂だけで見つけられるものだろうか。弱気になっているわけではなくて、もっと簡単に、先輩のほうから出てきてもらえるようにする作戦がどこかにあるような。そんな気がする。
ふと、足の下にある、館をじいっと見つめてみる。

「……そうか!」

俺は思いついた作戦を谷裂と共有するために、屋敷の中に急いだ。
時間はもう五分しかない。



私はぱちぱちと目を開いたり閉じたりするが、その光景が衝撃的すぎて飛び出してしまった。
「やるぞ」「ああ」と彼らはお互いに頷いて、一体なにをするのだろうかと、屋敷の影から伺っていたのだが、それから斬島は「さん、に、いち、」とカウントダウンを始める。ふたりは自分の武器を振り上げる。振り下ろしたら館の壁に大穴が空くだろう。いやいやいや。まさかそんな。まさかそんな。まさか、ね? 
まさか、とは思うが止めないわけにはいかない。私は館の影から飛び出して、ふたりの元へと走る。

「ちょっと待ったあ!!!!」

最高点まで武器が到達したその時、私はどうにか走り込んで、館の壁を一度蹴り、まとめてふたりに飛びかかる。私の右腕が斬島に、左腕が谷裂を捉えて、その勢いのまま背中から地面に倒す。もちろん私もぐしゃりと倒れることになるが、屋敷の壁が壊されることに比べたら、全然大したことではない。
まったくこの子たちは一体、あ。

「捕まえたぞ、先輩」
「勝負ありましたね」

ぐ、と私の背中に二人の手のひらが添えられる。

「いや、まあ、うん、そう、だけど……」

私をおびき出すために、屋敷の壁を壊そうとするのは如何なものか……。芝居だったのか本気だったのか、彼らは真面目な顔をして私を見上げている。止めに入っていなかったらどうなっていたか。きっと壁に穴は不可避だったと思う。かなり本気な顔をしていたし。呆れればいいのか極めて有効な策を弄したことを褒めればいいのか。
とうとうわからなくなってきた。
しかし私は、ぽん、と二人の頭に手を置いた。

「そうだね。私の負け。なにか甘いものでも食べに行こうか」

ご馳走するから、と言えば、ふたりは大きく返事をしていた。


--------------------
20180114:初夢こんなんかい……となるけど、しかし、これは年末に書き上げられなかったやつ……。次は正月っぽい話かきます。正月終わってるけど。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -