獄都事変 | ナノ


一閃/斬島  




路地の奥に、少女であったものが転がっている。というのも、その辺り一帯はすっかり赤く染まってしまって、かつて生き物だったそれももう、ピクリとも動かないまま。
路地の入口には人だかりができていた。なんだろうか。私は見なければならないような気がしてそこを覗いた。驚くほど簡単に最前列まで移動できた。

「……」

彼女のことをかわいそうだ、と思うべきなのか、こんな事が身近で起こるなんて怖いと震えるべきなのかわからないまま、じっと唇を引き結ぶ。警察がうろうろとしている。ああしていて何かわかるのだろうか。ちなみに私にはなにもわからない。しかし、彼女の着ている制服には見覚えがある。私のものと同じだ。
という事は、明日学校に行った時、なにか学校から連絡があったり、黙祷をしたりなんかするのかも。いくらだってやるけれど、それで救われるものがあるかは、やっぱり、私にわかるようなことではない。
そんなことよりも、制服が同じ、という理由で情報提供を求められるかもしれない。こんなに目立つところで立っていたら。でも、私はただの野次馬だから、話すことなんてない。彼女が誰かも、ここからでは分からない。彼女はうつ伏せで倒れているし、路地はやけに暗い。まるでこの世ではないどこかと繋がっているかのようだ。
警察のひとりが、遠巻きにしながらその少女に上を向かせた。体を反転させたのだけれど、その時、彼女の腕が床に投げ出された。そこだけ日が当たっていて明るい。その腕には、私と同じ古傷があった。

「ねえ、君」

警察のひとりがこちらに声をかけに来た。
私が声を出せないでいると。

「はい」

と、私の後ろにいた女子生徒が答えた。女子生徒は前に出て、私よりも前に出る。私がまるでいないみたいに、私をすり抜けて、前に出た。
あれは。

「私か」

どうしてこうなったのか、うまく思い出せない。斬られた瞬間は痛かった気がする。意識がある内は痛くて痛くて。それでも、生きていようと思ってどうにか抗ったのだけれど。あれ、私は斬られたんだっけ。一体、何にだろう。
時間をかければ思い出せる。そんな気がしていた。
自分はもうここにいてはいけない、漠然とした考えは私をこの空間から切り離していく。近くで聞こえていたはずの警察官と女子生徒の声がどんどん遠くなっていく。私にはもうどうにもできない世界の出来事。ああ、私は今から、行くべき場所がある。ここにいつまでもいてはいけない。
行かなきゃ、私は思って、そして踏み出す。

「そっちじゃないぞ、夜子」

夜子を呼ばれて振り返る。

「お前は、俺と一緒に獄都へ行くんだ」

青い目をした、人間とは違うものと目が合った。
……いや、違う、私はこれと、同じ場所に行くべきではない。魂が叫ぶのがよく聞こえる。本能が体の表面にあるみたいだ。

「……君、は」

これは私自身に問うている。急速に目が冴えていく。この青色は見たことがある。いいや、見たことがあるなんてものじゃない。私はずっとこの目を見上げていた。刀を振り上げた時も躊躇いなく振り下ろした時も、床に倒れた後もずっと私は。

「なんで私、君に殺されたんだろう?」

彼は少しだけやりずらそうに視線を泳がせて、そうしてから真面目な顔をして言った。

「待てなかったんだ」

待つ。なにを。私を? なんで?

「殺せばお前は亡者になる。獄都に連れていける」

ああ、私が、いつか、勝手に死ぬのを、待てなかった、と。
けれど、私の魂が言っている。ついて行ってはいけない、そっちではない、と。多分これに連れていかれたら、私は人間の魂の道を外れてしまうのだろう。青い彼に、なにか言おうと口を開く。開くけれど、ひゅ、と彼はただ真っ直ぐに、また、私の喉元に刀を向ける。

「何度殺してでも、連れていく」

突きつけられているのは、刀と、それから、


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20171224:クリスマスに書く夢かこれ……

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