獄都事変 | ナノ


忘年会を無事終わらせる為のH/災藤  




代わりのの景品について考えながらショーケースを覗いていると、災藤さんに見つかってしまった。まだ任務の報告を終えていないので、少しだけ気まずい。

「おや、夜子? こんなところで寄り道?」
「ああ、いえ。まあ、寄り道なんですけど……」
「もしかして、今日の忘年会の?」
「私の管理が行き届かないばっかりにばたばたしてまして」

平腹が私が用意した特賞を食べてしまった話はもう既に特務室中に知れ渡っていた。朝、谷裂が平腹を逆さに吊るして、田噛が『私は先輩に迷惑をかけました』と貼り紙を貼っていた。もういいからと下ろしてやったが、肉の恨みはそう簡単に消えそうにない。
そんなわけで、災藤さんもその件については把握してくれているようであった。

「それなら仕事の内だろう? そんな顔をすることはないよ」
「そうですかね……」
「ああ。それで、何か良い案は浮かんだかい?」
「うう、ん、そうですねえ。やっぱり、今あるものだけで何とかして、肩たたき券六枚綴りとかを追加する感じで乗り切ろうかなあ、と」
「ふふ」

深刻に言ったつもりだったのだが、災藤さんは楽しそうに笑っていた。何か良いことがあったのだろうか。それとも。

「……今の面白かったですか?」
「いいや、もっといいものがあるのに、と思ってね」
「え」

「本当ですか」と私が聞くと、災藤さんはにっこり笑って「ああ」と深く頷いた。「多分、肉よりずっと盛り上がる」「本当ですか!?」それはやらない手はないのでは。
だが、そんなにうまい話がタダで転がっているとも思えなくて、私は私の財布の中身をぼんやりと思い出していた。割と残念な感じだ。

「あ、でも今あんまり持ち合わせなくて」
「大丈夫。肩たたき券より簡単だよ」

そんなことが。

「それって一体なんなんですか?」
「思い当たるものはないかい?」

言われて少し考えると、引っかかる出来事がなかったわけではない。明確なのは、そうだ。

「うー、ん……、佐疫あたりが何か言いかけてましたけど……」
「そうか、佐疫が。なるほどあの子なら、特賞を取れなかった時のことを考えて、あえて提案はしない、かも知れないね」

取れなかった時のことを考えて提案をやめる、ということは、取れたら嬉しいが取れなかった時大変に悲しいということではないか? つまり、なんだろう? 何か、彼らが本当に欲しいたった一つのものが、災藤さんにはわかっているのだろうか。休みとか? 田噛ならともかく、佐疫はそんなもの欲しがるだろうか。

「それって、なんですか?」

数秒頭を悩ませたが、結局これという答えには至らなかった。災藤さんに答えを聞くも、特務室副長のこのひとは、長い指を自分の口元に添えて、ぱちり、と片目を閉じて見せた。あまりに器用にやるものだから、どきりとする。

「秘密」

秘密にされては、用意出来ない、が。
私が体全部で困っていると、災藤さんはまた、楽しそうに微笑んだ。「心配はいらない」私は雪雲のような瞳を見上げた。

「私が用意しておくよ」
「いえ、でも」
「夜子には用意しにくいものだから、ここは任せておきなさい」

私の頭の上に手のひらが乗ってするすると滑る。ここまで言ってもらっているのだから、強く断るのも申し訳ない。素直に災藤さんの案の上に乗せてもらうことにした。

「は、い。では、宜しくお願いします……」

と、私はその名案というのを楽しみ半分、不安半分に忘年会を迎えた。



忘年会は特に問題なく始まり、何事もなく進行していたのだが、ふと佐疫が「先輩、そう言えば特賞はどうしたんですか?」とこそりと声をかけてくれた。その件は既に解決している旨、述べると平腹が「肉!?」と勢いよく現れた。「肉はお前が食ったろ」と田噛。
特賞のことはみんな心配していたみたいで、その話だとわかると、私の周りにわらわらと集まってくる。「結局どうなったんだ?」と斬島が首を傾げるが、残念ながら私も知らない。
どうしたものかと思っていると、災藤さんの声が降ってくる。

「特賞は、夜子だよ」

なんだって。

「今度の夜子の休みに、夜子を一日独占できる券」

ぴら、と手作りらしいチケットが、災藤さんの手に握られている。綺麗な文字で『夜子一日利用券』と書かれていた。

「……」

いやそんなもので、と私は言いかけたが、後ろにいたみんなの空気が一気に変わるのを感じて口を噤んだ。
今からやるのはビンゴゲームなのに、人でも殺さんばかりの殺気が満ち満ちている。私がちらりと災藤さんを見ると、災藤さんもどうやら正気を失っている。私に私利用チケットを渡してまあほかの獄卒と同じような形相である。

「じゃあ、そんな感じで、一つ目の数字引きまーす……」

忘年会の余興は、ここ一番の盛り上がりを見せた。
私はしばらくどう反応して良いものか困っていたけれど、私の休みを差し出すくらいでこんなに盛り上がるなら、まあ、いいか。と、勝負の行方を見守っていた。


--------
20171221:こんな感じの、スキヤキに至るまでの話が明後日出る夢本です。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -