獄都事変 | ナノ


忘年会を無事終わらせる為のD/田噛  




田噛を連れて次の店へ来た。一つ前の店は和食を幅広くという感じだったが、ここの売りはいろんな釜炊きごはんなんだとか。店の大きさは同じくらいだが、どうやらできた時期がごくと食堂の方が早いようで、畳や壁など、二軒目の方が綺麗であった。
田噛は掘りごたつのテーブルが気に入ったらしく、机に頭をつけてまるで自宅のように寛いでいる。
私が正面に座るとのそりと顔を上げて、私の足に自分の足を絡めてまた机に頭を投げ出した。

「なにか食べる? 木舌はちゃっかり飲んでたけど」
「あー……、俺はいい」
「そう?」
「先輩が頼んだやつをもらう」
「そう……」

それならそれでいいや、と私は一軒目と同じものを注文する。つまり釜炊きの白いご飯。居酒屋に来てこれだけ、というのも微妙な顔をされたが、「忘年会の店を探してて」と言うと「なるほど?」と店員さんはわかったようなわからないような顔をしていた。しょうがないので店のオススメ、オリジナルカクテルも頼んでおいた。

「なあ先輩、ほかの仕事は?」
「ん? 今はこれが仕事。明日までに準備終わらせて、明後日からはいつも通り」
「店決まったら終わりじゃねえのか」
「折角だから盛大にやるかってことみたい。予算も結構もらったし、残りそうな分で余興とか考えれたらなーって思ってる」
「はい」
「はい、田噛くんどうぞ」
「先輩が歌ったり踊ったりしたら盛り上がる」
「盛り上がってたまるか! それはまた明日考える」

ご飯を食べたり酒を飲んだり、またそれらを田噛に奪われたりしながらノートに色々とメモしていく。さっきの店も良かったが、この店もなかなかだ。とりあえず候補としては申し分ない。それでも第一候補は決めなきゃいけないな、と手が止まる。
ここから先は夜にでも考えることにして。
田噛に「そろそろ帰ろうか」と言うと、田噛は嫌そうに顔を上げた。
嫌そうにするのが得意な後輩だ。確かに暖かいから外に出たくない気持ちもわかるが、ずっとこうしているわけにも行かない。

「ほら、帰るよ」
「あー……」
「……」

私がコートを羽織ると、「俺のも」と声がした。仕方が無いので放り投げるが「ん」などと両腕を広げているので「置いていくよ」と自分の身支度を進めた。まったくこの後輩は。
あまりに動く気配が無いので、マフラーだけ、適当に首に巻いてあげた。やれ、と言っておいて実際に少し手伝ったら田噛は目を見開いてびっくりしていた。どこからどこまでが本気なんだか、やっぱり田噛は難しい。

「……」

田噛はしゃがみ込む私を見上げて薄く唇を開く。
少量の空気を吸い込んで、吐き出すついでに一言。

「第一候補」

と言った。
えーっとたぶん、店のことだ。
ごくと食堂か米騒動かどちらを第一候補にするのか、と言うような話。なんでことない世間話だと判断して軽く「どっちにしようかね」なんて返そうとしていた。

「どっちにする? 俺と行った方と、木舌と行った方」

返そうとした言葉は一気に引っ込んでいって、この話題、いつの間にか軽いものではなくなっていることに気づく。いや、軽いはずだ。軽いはずなのに……!!

「なんでそういう言い方をするかね……」

田噛の言い方がことを深刻にする。まるで木舌か田噛かを選べとでも言いたそうな圧力を感じて、私は思わず胃のあたりを手のひらでさすった。

「俺か、木舌か、どっちを選ぶ?」

何故こんなことになったのか。私は何故こんなわけのわからないことで後輩に追い詰められているのだろうか。この問の正解はなんだろう? この店を選んだら田噛は満足なのだろうか?
私は無言で返す言葉に困ったまま会計をするため店の入口へ向かう。田噛はしつこく「どうする?」と聞いてくる。助けてくれ。

「忘年会って、大変だなあ」
「そんな話はしてねえよ」

どうにか誤魔化す方法はないものか、そんなことを考えていると、意外なところから救いの手は差し伸べられた。
会計を終えた時、店員さんから手作り感溢れる割引券を手渡される。

「良かったら、今度新しくできる店の割引券をどうぞ。姉妹店なので規模も料理もほとんど同じですよ」

にこり、と微笑むこの店員さんこそ救いの神に違いない。私の逃げ道はここしかない。

「ここで!!!!」

田噛は、盛大に舌打ちをした。


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20171213:獄卒病ませたくなる病気は割と常に患ってる。

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