獄都事変 | ナノ


忘年会を無事終わらせる為のC/木舌  




それでは外へ行こうと玄関へ向かうその途中、足音がどんどん近付いてきて、近付いている、と気づいた時には声をかけられていた。遠くからでも大きく手を振って、体の大きさも相まった大きな半円を描いていた。

「せんぱーい! 今からお酒飲みに行くってほんとう?」
「……」

どこ情報なのか定かではないが、木舌は緑の瞳をきらきらさせて私の肩を揺さぶった。

「ねえねえ本当かい?」

そう言われると、私はまるで遊びに行くみたいに聞こえるけれど、別に遊びに行く訳では無い。二、三確認したいことを確認するためだけに店に行くだけだ。酒だって、そんなに飲むつもりは無い。
無いが、その質問に対して本当か嘘かという返答をしなければならないのなら。

「…………本当」
「やったー!」

誰も連れていくとは言っていないのだが。「準備するからちょっとだけ待っててね」と言うので、私は大人しく玄関先で待っていた。長くはならない予定だし、まあ意見も聞けていいかと考えることにした。ひとりで行くよりふたりの方がありがたいのは確かにそうだ。行くのは居酒屋である。

「なんて店に行くの?」
「ごくと食堂と、米騒動ってお店だよ。木舌、行ったことある?」
「へえ。おれは行ったことないなあ。先輩は?」
「私もないから、下見にね」

話のどのあたりを把握して声をかけてきたのか全くわからなかった。私が、どこか居酒屋へ行くらしい、という話だけしか知らない様子だ。まあ彼にとっては、それだけが重要なのかもしれないけれど。

「結構落ち着いたお店だね」
「んん、結構好きかも」
「え? おれが好きって?」
「木舌もう飲んでるの? 言ってないよ」

私がふらふらとコートをかけたりしている間に、いつの間にか座敷に座って、どんな手品を使ったのか既に酒に囲まれている。
「遊びに来たわけじゃないよ」私は言うが「ええー?」とかなんとか木舌はただただ呑気に笑っていた。私が正面に座ると、「硬いこと言わないで先輩も飲もう?」とグラスに日本酒を注がれた。私は仕方なく、目的のものだけを頼み、お通しとして運ばれてきたキャベツを齧りながらしばし木舌に付き合うことにする。
木舌が楽しそうに酒を飲むので、まあいいか、というのはいつもの流れだ。

「先輩は結構お酒強いよねえ」
「いや、全然だよ。いつも飲んだ振りしてるだけで飲んでないし」
「でも、この前谷裂を負かしてなかった?」

少し考える、考えるがそんな記憶は存在しない。そもそも、私は誰かと飲み比べなんてした覚えがない。一体どこ情報なんだ。と言うか、彼には何が見えているんだろう。

「そ、そんなことはしていないと思うけど」
「潰れるまで飲んでほしいなあ」

なんてこと言うんだ。そうは思うが、昔友人が酒は程々にしておけ、と言って、あまりに必死に私に飲みすぎないことを誓わせるから、酒にやられた、という事態にはここ最近陥っていない。
私はあまり酒を飲んではいけないことになっている。どうしても飲みたい時というのは大体ひとりである。

「そういう会じゃないし」
「え」
「え?」
「先輩も潰れるまで飲むことあるの?」
「まあたまに……?」
「どうしておれを呼んでくれないの?」
「なんで木舌を呼ばなきゃいけないの……、酔って寝るだけのところに……」
「見たいから!」
「見てどうするの?」
「みんなに自慢する」

それは果たして自慢になるのか。私にとっては恥ではないのか。「まあなんでもいいけど」とは言うが、もう一度固く飲みすぎないことを誓った。
酒に強い、というのは木舌のようなもののことを言う気がするけれど、木舌はなんというか、酒は強い、ということが良い意味でわかる、と言うような……。肋角さん災藤さんあたりだと、酒に強い、という表現はピタリとはまる。
そんなことを考えていると、店員がふらりと現れて、私の目の前に小さな釜を置いた。
一人前の釜炊きごはんだ。

「お待たせ致しました」
「ああ、きたきた」
「それなに?」
「ごはん」
「え?」
「いわゆる釜炊きの」

ふうん、と、木舌は肘をついて手のひらに顔を乗せた。少し、面白くなさそうな顔をしている。

「斬島みたいなことするんだなあ」
「斬島のリクエストだからね」
「え? そうなのかい? ずるいなあ!」

そう勢いよくこちらに詰め寄ってきた木舌は、しかし次の一言ですぐにまた座布団に収まった。

「先着エンカウント特典だから」
「それなら残念だけど、仕方ないかあ」
「うん」
「おれは一緒に飲みに来れたしいいや」
「下見ね……、ガチの飲み会じゃないからね……」

私は改めて手を合わせた後、しゃもじを取って蓋を開ける。炊きたてのご飯の匂いだ。適当に切って少しだけよそう。箸に持ち替えて食べてみる。言うまでもない。

「美味しい?」
「うん。いい感じ」

ご飯を食べ終わるまで木舌は適当に飲んだり、私に世間話を振ったりしながら始終おだやかにしていた。食べ終わったら宴会場を見せてもらって、動物も良いか、大体の値段はどのくらいか、など確認するべきことは確認したので外に出る。
情報は移動しながらまとめるとして、早速次の店へ行こうかと、『米騒動』の場所を確認する。
確認し終わったタイミングで、木舌がふわふわしながら私の腕を掴む。

「じゃあ、二件目に、」
「おい木舌」

振り返ると、オレンジの目をした後輩が、寒さ対策ばっちりな姿で立っていた。だるそうなのはいつもの事だが、いつもよりも不機嫌そうに見える。

「ん? 田噛じゃないか。どうかしたかい?」
「肋角さんが探してたぜ」

私から木舌の腕が離れると、田噛はふう、と、息を吐いた。あ、いつも通りだ。

「え、そうなの? じゃあ行かないとなあ。またね、先輩」
「はいはい、がんばってきてね」

さて、私は予定通り二軒目の下見を、というところで、強く、それはもう強く腕を掴まれた。言わんとすることは、実はもうわかっている。


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201712:木舌くん人気あるよね……?

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