獄都事変 | ナノ


忘年会を無事終わらせる為のB/抹本  




「近い方がきっといいよね」

とは、私の独り言であるのだが、いつの間にか隣に座って私と同じようにデバイスで情報を集める抹本が、独り言にはさせなかった。

「でも、旅館とかだと、一泊泊めてくれるようなプランもあるみたいですよ」

話はもちろん、忘年会の開催場所についてである。カラオケ付きコンパニオン付き、なにやらいろいろあるようだ。うまい白米の食べられる、どんな店がいいか、いつの間にかふたりになった私たちは考える。

「ははあ、遠くだったら遠くだったで、それはそれでアリって感じかあ。でも予算がなあ……」
「結構な人数もいますし、それなりに大きいところの方がいいかも知れませんね……」

抹本の言葉に大きく頷く。
それはその通りだ。うちの連中は良い子ばかりではあるものの、おとなしい子達ばかり、とはとてもじゃないが言えないのである。

「まあ、多少暴れられるのは想定しておいた方がいいだろうね。なんなら動物オッケーのところで」
「あ、ギアラですか……?」

これで、かなり絞られる。プランはともかく、方向性は定まってきた。美味い白米が食べられて、大きくて頑丈、ペットOKのところである。そんなところ、あるか……? と、まあ探してみると、案外あるものである。元々人外たちの集う場所だ。ギアラくらいならおとなしい部類なのかもしれない。歩いた後が溶解したり、凍りついたりすることもなし。
そうなると、確かに漠然としていた時より絞り込めたが、それでも。

「数、多いなあ」
「そうですね……、居酒屋に詳しいのは木舌だと思いますけどそれにしたって全部は知らないでしょうし」
「うーーん、どうしようかな」

デバイスを机に放り投げて、近くにあった紙とペンにいくつか線を引く真っ直ぐな線を五本。線の先には私が独断と偏見と直感で選んだ五つの店の名前。店の名前の書いてあるほうをいくつか折り込んで、見えなくしたら、あとは適当に平行な5本の線に対して、隣と繋がるような横線を足していく。

「よし」
「な、なにしてるんですか……?」
「くじ作ってる」
「くじ?」

あみだくじ、という由緒正しき、物事を適当に決める方法だ。
私は作ったそれを抹本に渡して、にこりと笑う。

「はい、好きな線選んで」
「……先輩って、時々こういうことをしますよね」
「悩んでてもしょうがないし、意見集めるとなるとはじめからだし、まあここは、直感と運に任せるかなあ、とね」

抹本は、あみだくじとペンを受け取ると、更に線を足して私に返してくれた。

「はい、どうぞ」

一瞬考えるが、確かに責任の大半を後輩に押し付けるのはよくないかもしれない、と、自分で作って抹本が少し手を加えたあみだくじを自分で引いた。

「……じゃあ、ここ!」
「そこは、えっと」

私が選んだ線からジグザグと、一つの店名に近付いていく『ごくと食堂』と言う店はあんまりにもそのまんまな名前だけれど、シンプルで大変いいかなと選んだ場所だ。
いざ決まると、少し心配になる。
まあ、これ一つに絞る気は無い、もう一つくらい候補を決めておこう。二件くらいなら下見に行くのも良いかもしれない。二件ともやばそうだったら、まあ、また選び直せば良い話だ。
私が微妙な顔をしていたせいか、抹本が、目をキラキラさせて言葉をかけてくれた。

「大丈夫ですよ。先輩が選んだんですから」
「君、結構そういう根拠の無いこと言うよね……」
「そ、そんなことありません……! きっと先輩はこのあともう一回くじを引いて、もう一店舗候補を出したあと、心配だし下見に行こう、なんて考える獄卒だって、俺、知ってますよ……?」
「……まあ、そう、なんだけどね」

見透かされていた。私が否定しないでいると抹本はにこりと笑って、『ごくと食堂』という店の部分だけ切り取って、また数本線を足して、店名の部分を隠した。
す、とあみだくじを差し出される。

「はい、もう一つ」

私は大人しく、もう一つの店を決める。二件目は『米騒動』という店である。なるほど、と私は腕を組んで考える。本当に大丈夫か? そのネーミングは攻めすぎでは? 二件候補を上げたところで、結局不安になるばかりである。

「……先輩が決めた場所なら、みんな文句なんてありませんよ」
「うーん、がんばるね……」

抹本は病院に行くから、と席を立って、さあ私は彼の言った通りに店の下見に行くために、外へ出る準備を始めるのだった。


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20171207:結構強いと思う、抹本くん。

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