獄都事変 | ナノ


忘年会を無事終わらせる為のA/斬島  




忘年会、と言ってもまずは、どんな料理を食べるか、という所くらいから決めていくのが良いような気がした。日程の調整は肋角さんと災藤さんがやっておいてくれるようだし、そこはほとんど考えなくて良いだろう。
ただ、店が定休日、とかだと目も当てられないので、日が決まるまで候補はいくつかある方が安全だ。
ともあれ、まず、和食とか中華とかイタリアンとか、どんな店を選ぶか、傾向だけでも決められたなら。
そんなことを考えながら歩いていると、任務から帰ってきたところらしい斬島を発見した。まっすぐ伸びている背筋に、しっかりとした足取り。「斬島」と声をかけたら、強く深い青色がこちらを振り返った。

「先輩!」
「お疲れ様、今帰り?」
「ああ。先輩は……、今から任務か?」
「うん、半分くらいは」
「半分?」
「肋角さんから頼まれごと」
「肋角さんから……! 何か俺に手伝えることはあるだろうか」

正直その言葉を待っていた。

「あるある! 一ついい?」
「ああ」

斬島は力強く頷いて、ぐ、と拳を握った。頼もしい限りだ。とは言っても、そう大した事でもない。秒で終わるような質問だ。

「ありがとう。じゃ、遠慮なく。忘年会するなら、何が食べたい?」
「う、」
「う?」

秒で終わるような話。リクエストを聞いただけだったのだけれど、斬島は目を輝かせた後口を開いて、一文字目を声にしたところで、ぐ、と押し黙る。
意図的にそこから先を声にするのをやめたみたいだ。ふるふると首を左右に振って、落ち着き払った振りをして言う。

「……それは。先輩が好きに決めていいんじゃないか」

気を遣われているらしい。
確かに食べたいものがないではないが、いまいちこれというものに行き着かない。だから聞いているので、むしろ、スパッと食べたいものを教えてくれた方が親切だったりするのだけれど。

「いやあ、先着エンカウント特典でね?」
「いや、それは幹事の特権だ。先輩はなにがいいんだ?」
「私はいいよ」
「ダメだ」

ダメか……。ダメなら仕方がない。かと言って、先着エンカウント特典を撤回するつもりもない。あまりヒントはないが、言いかけた言葉の、その先を探す。
う、う、か。うなぎとかではなさそうだ。
私はしばし、指先を顎に当てて考える。

「うーーん……」

私はゆっくり、斬島を見上げると、顎のあたりに付けていた指を頬の横へと持ってきてまっすぐ立てる。

「美味い白米を出してくれる店!」
「!! それは……」
「……」
「……」

斬島が言おうとしていたのはきっとこれだ。
どうだろうかと覗き込むと、斬島は居心地が悪そうに俯いて、そうして一つ息を吐いた。反応を見るに恐らく当たり。
少し落ち込んだ様子の彼を見ていると悪いことをしたような気分になるが、その案はなかなか。

「そんなにわかりやすかっただろうか」
「斬島は素直だからねえ」
「俺は、先輩のことはなかなかわからないのだが」
「そうかなあ」

悪くない案だなあ、とは本当の気持ちだ。

「でも、いいじゃない。土鍋とかでご飯炊いてくれる店。私も行ってみたい」
「本当か!」

斬島の素直で正直な反応は、こちらを和ませる力がある。探す店の傾向はこれで決定だ。美味しいご飯が食べられる店。うん。やっぱり、悪くない。

「うん、ありがとう。斬島」
「いいや、俺は何も……」

斬島はまた首を振っていたが、そのうちピタリと止まると、私の方をまっすぐ見つめた。

「夜子先輩」
「うん?」
「ありがとう」

深々と頭を下げられて、今度はこっちが首を振る番だ。首だけでは足りなくて両手もぶんぶんと振っておいた。

「私こそ何もしてないよ」

私たちはさっきから首を振ってばかりだが、また、私の言葉を斬島がゆるりと否定した。

「先輩は、いつも優しい」
「そんなことは……」
「いいや、優しい」

このくらいのことで、こんなに褒められては困ってしまう。それにそんなことを言ったら、斬島だって私が半分仕事中だとわかるや否や手伝いを申してでくれたのだから、斬島こそ良い子である。
私が色々する以上に、みんなの方が。

「みんなの方が、いつも優しいじゃない」

斬島は、「それは違う」とキッパリと否定した。
その真意は読み取れなくて、私にもわからないことはまだまだあると再認識したのであった。

「そうなの?」
「そうだ」

この問答はしばらく続いたが、ともあれ、私は次に、うまい白米が食べられる店、をキーワードに、お店探しをすることに決めた。


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20171204:箱推しをこじらせている

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