獄都事変 | ナノ


忘年会を無事終わらせる為の@/助角  




「と、今回の任務はそのように片付けておきました」

コートの下にだんだんと着込むようになって、部屋の中でもマフラー耳あてなんかをしていなければならないような、冬が深まるある日のことだ。
帰りの電車の中で報告書をまとめて、今、上司である肋角さんに口頭での報告も終えた。肋角さんは満足そうに数枚の紙をパラパラとめくって、ぱたんと数枚の紙、もとい、報告書の上に手のひらをのせた。「御苦労だった」と有難い言葉に私は頭を下げて、それでは、と執務室を出ていこうとした。
だが、なかなか、肋角さんの視線が外れない。
私は姿勢を正して伺ってみた。

「次の仕事がありますか?」
「ああ、相変わらず勘がいいな」

当たりだった。最近特に忙しい。後輩達の顔もしばらく見ていない。元気にしている、と聞いてはいるが、もしかして年の瀬もこんな感じで、次に顔を合わせた時には、「あけましておめでとう」なんて新年の挨拶になるのではなかろうか。
それは少し寂しいような。
私がぼんやりこれからのことに思いを馳せていると、肋角さんは、悪戯っぽく、ふ、と笑っていた。
あ、そんなに深刻な仕事ではないようだ。「からかいましたね?」「まあそう言うな」肋角さんは続けた。

「特務室全体で、忘年会をしようという話が出ている」

ははあ、忘年会。
忘年会と言うとあれだ、今年もお疲れ様、という大きな飲み会。それを、特務室のみんなでやる、と。それは楽しそうだし、きっと木舌あたりは大喜びするんだろう。

「この話を、お前に任せる」

つまり、次の仕事は。

「幹事、ですか」
「そうなるな。やれるか?」
「それはもちろん。早速ですが肋角さんは食べたいものとかありますか?」

私はノートとペンを取り出して見出しを書き出す。二〇一七年、忘年会についての意見。肋角さんがそう言った、となれば話は簡単だから、何かしらあると話が早いと、

「そうだな。すきやきは美味かったな」

話が早いといいなあという気持ちだった。

「……それもしかしなくても、私がキリカさんとあやこちゃんの代わりをした日の話ですね……?」
「ああ」
「それは、全然ありなんですけど……」

そうなった場合、幹事って必要か……? と言うかここでやるのはもちろんいいし、飲んだら寝るだけという状況も素晴らしくはある。ただ、後片付けとか大掃除とか、そういうの、大変になると思うのだけど、私はどこまで考えて、どんな忘年会にするべきなのだろう?

「冗談だ」
「……」

ぎ、と助角さんは椅子にもたれかかって煙草を吹かす。ただ、助角さんが冗談で言ったとしても、もし、その方がいい、と言ってくれる子が多いなら、それでもいい。掃除も後片付けも怖くはない。望んでくれるならいくらでも。そんな風に考えて言葉に迷っていると、助角さんが、少し笑って「夜子」と私を呼んだ。
顔を上げるが、それだけ、ではまだ不十分らしい。近くへ来いと言われている気がして、私は数歩、助角さんに近付いた。

「とは言え、それだけが仕事というわけではない。もちろん通常の業務もある。そう凝ったことをする必要はないし、場所さえ押さえてあればそれでいい」

それはそうだ。まるで大変に重大なことのように次の任務は幹事である、などと言ったが、幹事だけが仕事のはずはない。私はまた明日からも通常通りに任務に出て、そして忘年会の準備を進める。「そう気負うな」助角さんは言うが、気負わずにはいられない。そんな、おもしろそうなこと。やるからには楽しくしなきゃあ、嘘だ。
今度もきっと、なんとかなる。
私は心配いりませんよ、と笑った。

「みんなが楽しめるように、また頑張ってみます」
「そうか」

助角さんは立ち上がって、ためらいなく私の頭に手を伸ばした。このひとには、どうしてかよく、頭を撫でられる。労われているのかもしれないし、単純に子供扱いなのかもしれない。が、いやではないので私はじっと助角さんを見上げていた。穏やかな深い赤色が、少しだけ細められる。

「何かあったら言うといい」

私もにっ、と笑って「はい」と頷いた。
助角さんは飽きるまで私の頭を撫で回した後、もう一度「任せたぞ」と念を押した。
結局、助角さんのリクエストは聞くことができなかったけれど、さっそく私は情報収集へ出るのであった。


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20171130:まあいつものですね!!!

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