獄都事変 | ナノ


これからもよろしく/木舌  




「お酒選びを手伝ってくれませんか」

とは、夜子からの連絡だった。
生者である夜子は、普段なら地獄との付き合いなど無いはずだけれど、まあいろいろあって特務室と仲良くしている。おれと個人的に仲が良い、というわけでない点が大変に残念だ。
ただ、今回ばかりは夜子はおれをご指名で、頼ってくれるらしかった。
現世で夜子に会ってみると、夜子は淡々とおれを見上げて言った。

「お酒を選びたいんです」
「おれへのプレゼント?」

夜子は少し面倒くさそうに顔を逸らした。そのまま、背にしている大型ショッピングモールの一角にある酒屋をちらりと見て、種類の多さに、ため息を吐く。

「……欲しいなら、付き合ってくれたお礼でなにか買いますけどそうでなく」
「ん?」
「友達に贈るんです。オススメ教えて下さい」
「なーんだ、そういうことかあ」

プレゼントにお酒を送ると決めたはいいものの、自分ひとりじゃ何を選ぶべきかわからない。だからおれに声がかかったと、そういうわけらしい。夜子はうんうんと頷いた。

「お祝いに、いいのがあればと」
「へー、優しいなあ夜子は」

いや、優しいとかでは。夜子が謙遜している間におれは売り場に入っていく。控えめに付いてくる夜子の気配に良い気分になりながら、コーナー内をぐるりと見回す。なかなか良い品揃えだ。

「あれとかどう?」
「……あのピンク色のパッケージの?」
「そうそう。あ、あの青いやつもいいね」
「…………えーっと、あとは?」
「これもいいしこっちもいいし、あー、少し高いけどこれなら間違いないんじゃないかなー」

おれは至極真面目に答えているつもりなのだけれど、夜子はと言えば複雑そうな顔でおれを見上げている。
なにか間違えただろうか。

「……なんか、オススメしてくれるやつ、全部かわいい感じですね」
「へ? かわいくないほうがいいかい?」
「友達男なんで、たぶん、ごつい感じの日本酒とかが」
「え」
「え?」

ええ? 男友達に、祝の酒を? 渡す? おれですらもらったことがないのに?? と言うか、獄卒の誰にしてみたってそんな経験はないだろう。いろいろと淡白な彼女が、男友達を、わざわざ、祝うために、おれの力を借りてまで……???
祝うってことは、誕生日とか、なのだろうか? 誕生日のプレゼントを渡すほど仲がいいってこと?

「そ、んな、仲のいい人がいるんだねー、へえー」
「まあそこそこですね、大学の同級生ですよ」

おれの気など知る由もない。
夜子はおれが指さした酒のうち一つを手に取りくるくると、手の中で回している。

「え、えっと、夜子?」
「はい」
「夜子はその人のこと、どう思ってるの?」
「どう?」
「好きとか嫌いとか」
「好きか嫌いかで言ったら、祝の品送るくらいには好きですけど」
「……」

夜子はおれを見上げて、きょとんと首を傾げていた。

「……大丈夫ですか?」

大丈夫じゃないが、この大丈夫でなさをどう伝えたものか、震えながら夜子を見下ろしている。おれはどうするべきか、少し考える時間が欲しい。
そんなことを思って立ちすくんでいると、ここの店員であろう、女性が一人、夜子に小さく何かを伝えていた。

「え、ああ」

しかし夜子はよくわからないままらしく、不思議そうな顔をして言った。

「結婚祝いですよ」

つまり、その男の相手は夜子ではない、と。

「……ごめん」
「なんで謝るんです?」
「ちゃんと選ぶから少し待ってね」
「今までちゃんと選んでなかったんですか」

おれは少しの間落ち込んだけれど「お礼どうしたらいいですか?」の言葉に、落ち込んでいる暇はなくなった。
次の休みの前に、飲みに行く約束を取り付けた。


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20171123:木舌くん好きがたたってついひどい目に合わせたくなる……コマッタナァ……。

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