獄都事変 | ナノ


さっきのこと/災藤  




目覚まし時計の音でも、誰かが起こしに来た声でもなく、私は私の赴くままに目を開いた。
視界に広がるのは本の山だ。見慣れた布団はどこにも見えない。
また何か、おかしなところで眠っていたらしい。
私は私が枕にしていた何かに手を置いて起き上がる。図書室だ。図書室。図書室?

「おや、起きたのかい?」

私は恐る恐る声のした方を見るが、やはり恐ろしいものをみてしまった。災藤さんが、笑って、こちらを見ている。いや、それ自体は怖くないけど、この状況に至るまでになにがあったか、思い出せないのがなにより恐ろしい。
私の手は災藤さんの膝に置かれていて、なるほどつまり私が枕にしていたのは、災藤さんの膝であったということになる。なんということであろうか。
私は秒で立ち上がって、床に正座した後額を床に押し付けた。

「大変申し訳ございませんでした」
「ふふ、おまえはいつも面白いね。そんなことをしていると制服が汚れるだろう?」

隣に座るといい、と災藤さんが仰るので、もちろん座らせていただくけれど、私は一体何をやらかしたのだろう。
キョロキョロと視線をさまよわせて思い出そうと試みる。本が積み上げられているのは、私がただ読書に夢中になっていたからだ。特に何かを頼まれた記憶はない。昼ごはんはうどんを食べた。それから本を読み出して、夕飯を食べた覚えはない。
ちらりと時計を確認したら、時刻は九時を回っていた。夕飯は食いっぱぐれた挙句、災藤さんを拘束していた……? そんな馬鹿な……。

「あの、えーっと、やっぱりその、すいませんでした」
「なんのことだい?」
「膝、痺れてませんか」
「大丈夫だよ。夜子こそ、どこも痛めていないね?」
「はい、安らかーに眠っておりました……」
「それならよかった」

にこり、と、災藤さんは、笑うけれど、私はつられて笑えるほどの余裕が無い。恐れ多くて穴にでも埋まりたい気持ちである。
同じ轍を踏まないために、原因の究明を急がなければ。災藤さんだったからよかったものの、谷裂とかだったら今頃私は血を流しながらたたき起こされていた事だろう。恐ろしい。

「いや、ちっとも良くは……私一体どうして災藤さんの膝を枕にしていたんでしょうか……?」
「おや、覚えていないのかい?」

その言葉に今一度自分の行動を振り返ってみる。だが、どこを探しても災藤さんは出てこない。

「はい全く。私は一人でいたと思うのですが」
「ふふ、覚えていない、か」
「もしかしなくとも私なにか粗相を……?」
「夜子はいつもどおりだったよ、心配はいらない」

災藤さんは、ここに至った流れについて教えてくれる気は一切なさそうだった。ならば私が思い出すか推理するしかないのだけれど、本当に、どこにもヒットしない。

「え、ええ……」
「そんなことより、どこかに何か食べに行かないかい?」
「え? あ、いえ、私は」

と言うか、今から行けるような店と言っても。

「お酒でも飲もうか」

そう、居酒屋くらいしかない。

「……」

どうしたものかと黙り込んでいると、災藤さんはゆるりと私の両目を覗き込んだ。

「嫌?」

私の方に拒否権はひとつもない。と言うかあったとしても断れる気が湧いてこない。

「喜んでお供させて頂きます!」

本当に私は、どうして、こんな所で寝たのだろう。


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20171122:さっきのことが思い出せないのが、そもそも災藤さんとあった記憶がないのかも。

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