獄都事変 | ナノ


夢を見ている/平腹  




外で、ギアラでも探して遊ぼうかと思っていた矢先だ。平腹は、いつもとちがう香りを嗅ぎとる。

「あれ?」

木陰から、夜子の匂いがした。
珍しいところにいるもので、しかしとても天気がいいし風が気持ちいいからそんなところでぼうっとしていることにも納得だ。
ひょこりと夜子を覗き込むと、夜子は無言のまま一本指を立ててシィ、と息を吐く。

「夜子じゃん!なにしてんの?!」

平腹にしては小さな声で夜子に問う。夜子はと言えば眠そうに頭を揺らしながら膝の上を指さした。
黒い猫が夜子の膝の上に丸くなって眠っていた。

「本読んでたんだけど、気付いたらいて。まあどかすのも悪いから私もここでぼうっとしてる」
「そっかー。平和って感じだなー」
「うん、そうなの。せっかくだから平和を全身で感じる遊びしてる」
「楽しくなさそー!!」
「まー、確かに、めちゃくちゃに楽しいってこともないけど、これはこれでいいものだよ」

猫は平腹の声に薄く目を開いたが、つまらなそうに大きく欠伸をした後に、また目を閉じた。夜子が黒猫の背を撫でると、猫は少しだけ体を伸ばした。
ざあ、と風が吹くと、少し肌寒い気がした。

「猫すげー寝るな」
「寝るねえ」
「あれみたいだなー、た」
「た?」

びた、と体を硬直させて、言葉を止める。

「たぬき!」
「……たぬき? あんまり見たことないなあ。……それより、私てっきり、田噛みたいって言うと思ったのに」
「田噛は夜子の膝では寝ない!」
「たぬきが寝るかって言ったらそうでもないけど」
「んー難しいこと気にするなー」
「多分難しくしたのは平腹だよ」
「オレかー」
「うん」
「ならしかたね……ん? オレ?」

平腹は世紀の大発見をした、と言うように目を輝かせて手を挙げた。猫は鬱陶しそうにもぞりと動く。

「じゃあ、オレ!」

じゃあ、オレ。
言葉を頭の中で何回か反芻した。それは何の話をしているのだろう。考えているのだけれど、平腹は私の思考より先に居て、既に次の行動を取っているから、全然追いつけない。私の膝を、平腹の手のひらが押さえ付ける。地味に痛む。

「あー、っと、たぬきじゃなくて、田噛じゃなくて、平腹?」
「そうそう!」
「なんで?」
「寝るから!」

平腹は猫を少しずつ押しやって、着実に場所を確保していく。猫は低くにゃあと鳴いて、ようやく不満そうに顔を上げる。

「あの、平腹?」
「おやすみ!」
「あ、はい」

平腹は私の膝の上に頭を載せて、猫と場所を奪い合いながらも、どうにかこうにか落ち着いた。私も成り行きをただ見守っていたのだけれど、見守っていただけのせいで、猫と平腹はそのうち停戦し、私の膝を分け合って眠った。

「ん、ああ、そういう事か」

確かにこうしていると、どちらも、猫のようだった。
折角平腹の思考に追いついたのに、小さな猫と大きな猫は、すっかり夢の中にいる。


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20171119:田噛を書くと平腹を書きたくなるんだなこれが…。

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