獄都事変 | ナノ


完全犯罪/田噛  




書類が、片付けてあった。
図書館に置いたままの書類の山がきっちり片付けられていて、書類を片付けるために来た私は、一瞬でやることがなくなってしまったわけだ。

「……」

あったはずの書類の山は消えていて、書類があったスペースには田噛が眠っているのだった。
制帽を隣において、気持ちよさそうに腕を枕に寝息を立てている。

「田噛くん」
「……あー、先輩?」
「そう、先輩。書類片付けてくれたんだよね? ありがとう」
「いや……」
「ん? 違う?」
「……違わねえ」
「うん。ありがとうね」

私は何度か田噛君の頭を撫でつけて「それで」と本題へ移行。片付けてくれたのはありがたい事だ。田噛くんのことだから仕事ぶりに心配もしていない。ただ、あの田噛くんがタダで仕事を肩代わりしてくれるとも思えない。

「私はどんな仕事を代わればいいの?」
「……夕飯当番」
「りょーかい、何が食べたい?」
「魚」
「秋鮭はどう?」
「買い出しが必要で手の込んだ料理がいい」
「? まあ、いいけれど。じゃあ食料庫見てさっさと買い出し行ってくるね」

いまいち田噛くんの意図を読み切れないが、まあ私が彼の言う通りに行動することにより何かしら得をするのだろう。私の仕事を片付けた報酬なのだから、希望通りに動くことに決める。
田噛君の頭からそっと手を離して食堂の方へ踏み出すのだが、かたり、と椅子が鳴ったから振り返った。

「俺も行く」
「……さてはサボる口実に使おうって魂胆?」
「そんなところだ」
「ついてきたら荷物少し持ってもらうけどいいの?」
「いい」
「ふーん? あ、疲れたからって言っても引きずって帰らないよ?」
「……ついてきて欲しくないみたいだな」

田噛くんが、残念そうにそう呟いたので、私は慌ててそんなことは無いよと首を振った。買い出しに誰かが一緒なのは楽しい。荷物も減るし、話もできる。田噛くんは仕事をサボる口実を得るし、他にもなにか良いことがあるらしい。
ならば問題などどこにあろうか。

「行こうか?」
「……」
「うん? やっぱりやめとく?」
「なあ、先輩」
「ん?」

どうやらなにかを探っているらしい田噛くん。私の制服の裾をぐっと握り込んでこちらを見ていた。まだ昼過ぎなのに、夕暮れの空に見下ろされていた。

「夜食も欲しい」

私はきょとんと田噛くんを見上げる。
その位のことならば、よほど忙しくなければいつでも叶える。クオリティは保証しないが。
ともあれ、私は一つ頷いた。

「……いいけど、夜ふかしする予定があるの?」
「これもいいのか」
「うん?」
「ああ、報告書を仕上げる」
「……今、やらないの?」
「今はやる気が起きない。先輩の書類片付けたから」
「結構な量あったもんね……、疲れてるなら寝てていいよ」
「先輩の部屋で?」
「なんだろ、平腹くんとかほかの獄卒の襲来が怖いならそれでもいいけど」

田噛くんは真剣な顔をして数秒考え込む。買出しについて行くべきか、私の部屋で寝ているか、について考えているのだとしたら、それはそんな深刻になることなのだろうか。

「いや、買い出しに行く」
「じゃあ、今度こそ行こうか?」
「で、夕飯作りも手伝うから場所も貸してくれ」
「いやいや、報告書あるんでしょ?」
「先輩の部屋でやる」
「ええ……、まあ別に困らないけど」

私が快く答えると、田噛くんは、正気か、と少し引き気味な視線を寄越してきた。なんてやつだ。強請ったのは田噛くんのはずなのに、許可しかけたらそんな顔でこちらを見てくるなんて。
どういうことだと言及する直前「まあいいか」と彼は肩を落とした。

「先輩はやっぱいっつも、先輩だな」
「ありがとう……褒められてるよね?」

褒めてる、残念だけど。と食料庫の方へ歩き出す田噛くんの意図は、とうとう読み切ることが出来なかった。
もしかしたら、私がどこまで許可するか、仲間内で賭けでもしていたのかも知れない。


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20171115:成立させる気はない

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