獄都事変 | ナノ


キミじゃなきゃだめみたい/斬島  




俺は、その一部始終を遠くから見ていた。

「夜子、鍛錬しないか」
「ちょっと!? 言いながら武器振り下ろすのやめてもらってもいいかな! 断るから! 任務あるし! 肋角さんのところに行かないとだし」
「む、それならしかたないな」
「そうでしょうとも。あとさらにその前にまだ寝てる木舌迎えに行かないと」
「……夜子」
「うん? 木舌たたき起こしてくれる?」
「いや、やっぱり鍛錬しないか」
「しない……」

「そうか……」と斬島は心なしか寂しげに離れていく夜子を見送っていた。
そして「最近斬島が鍛錬ヤクザで谷裂よりもめんどくて困る」と言うのは夜子の言葉であった。「何とかしておいてほしい」とも。夜子があまりに切々と訴えるものだから、俺もついに、斬島に話を聞いてみることにした。
最近やたらと夜子を鍛錬の相手に指定する、その理由について。
そうと決まれば、斬島がこちらに気づいたタイミングで、ひらひらと手を振って近付いた。

「最近よく、夜子と鍛錬してるね」
「……そうか?」
「そうだよ。よく誘ってるの見かけるよ?」
「……そうだろうか」

斬島には今、どうにも絶えず心配事があるようで、それを話すか少し迷っていた。しかし、ちらりと、俺の顔を確認して、打ち明けてくれることにしたらしかった。

「夜子は、よく抹本と一緒にいるだろう」
「もしかして、気になる?」
「ああ」

気になるらしい。ただ思った通りに、斬島は頷いた。あまりに真っ直ぐで、思わず少し笑ってしまう。「どうした?」「ううん。なんでもないよ。それで?」斬島は続けた。

「それから、抹本は、誰にも触らせないような作業を、夜子には任せることもあるようだ」
「へえー、そうなんだ」
「俺は」

斬島はちらりとカナキリに視線を落とす。

「薬の話はできない」

だから、と。斬島は視線を落として肩にどんよりとしたものを乗せている。
俺は少しだけ思考の時間をもらう。
つまり斬島は、ほかの獄卒と一緒に居るのが気になるくらいに夜子のことを見ているのだけれど、自分は気の利いた話題を提供できないし、鍛錬に誘って夜子を必死に構っている、と言うわけだ。
そしてやりすぎて夜子はすっかり迷惑している。
この一点をどうにかうまく、この親友に伝える術はないだろうか。

「あの、斬島?」
「なんだ」
「最近は夜子も忙しいみたいだし、息抜きに遊びに誘ってみるのはどう?」
「それはいい案だが……」
「ん?」

玉砕した後だったらどうしよう。そんなことを考えたが。

「隣を歩くと、夜子と目が合わない」

斬島はその一瞬肩に乗っているどんよりとしたものを振り払って。鋭い真面目な青色の光は、今はいない夜子を想ってギラギラと輝く。

「鍛錬じゃなきゃダメなの?」

俺の言葉に、斬島には迷いも戸惑いもない。
ごめん、俺は心の中で夜子に謝った。

「夜子がこちらを見ている時だけ、落ち着く」

だからダメだ、と、斬島は念を押した。


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20170630:六月も終わるぞー

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