獄都事変 | ナノ


一輪の花を君へ20 / 災藤  




何か仕事をくれと家政婦二人に頼みに行った夜子であったが、皿を拭くだけであるとか、洗濯物を畳むだけとか、こちらもこちらで夜子が倒れたことを大層気にしているようだった。
夜子は、本当はもう任務にだって出ていけるのだからと笑うが、絶対にダメと女二人に念を押されて大人しく大量の洗濯物を黙々と畳む。本当に畳むだけで、これを持ち上げたり届けたりを夜子に任せることはしなかった。
これはこれで居心地が悪いものだなあ、と本当に小さく息を吐いて。

「……少しでも体調が悪いなら部屋に戻らなくてはいけないよ」
「わ、災藤さん! いえ、大丈夫ですよ! そういうのではなくて」

見上げると、静かな瞳とぶつかった。

「……まるで、罰のようだなって」
「罰?」
「はい。体を壊したのは自己責任なのに、皆が看病してくれて動けるようになっても気を遣ってもらって……、申し訳なくて仕方がないな、と……ああ、いえ、とてもありがたい事だとわかるんです、そんな風に言ったら失礼だ、とも……けど、それでも私は……」

こんな生き方をしたことがなかった、そんな気がした。
頑張らなければいけないと思う、報いたいと思う、気を使われすぎている。こんなに大切にされるような存在ではない。もっと適当でいいのに。ここまでされるとどうしていいか分からない。
零れるため息で落としたものを拾い上げるような優しさで、災藤は言った。

「そうだね、そう思うのなら、これは夜子にとっての罰なのだろうね。なにせ、私達はとても心配したのだから」

伺うような、一瞬の視線が胸に刺さる。佐疫が、抹本が、木舌が、田噛が、斬島が谷裂が肋角が平腹が。そして災藤が、夜子を気にして視線を合わせる度に、こんなことになってしまった責任を自覚した。
これはあまりにも最悪だと、せめて早く回復に向かうように目を閉じていた。

「それはもう、よく伝わっています…」
「夜子は、もう少し自分の体を労ること。わかったね?」
「はい……」
「……」

災藤が願うのは、この出来事をきっかけに「自分はまだまだ弱い」なんて結論に至らないことだ。
強くならなければ、ではなくて、もう少し周りに頼ることも覚えなければ、と、そう真剣に考えてくれたらと、そのことばかり。
災藤は、暗い表情にならないようにと、努めていつも通りに笑う。

「なんてね。でも、あの子達も無理をさせた自覚があるんだろう。だから必死なんだよ」
「無理だなんて」
「夜子も悪いけれど、私たちだって悪い。これからは夜子も自分の体の管理を気を付けるし、私達ももう少し夜子の都合を考える。それでいいだろう?」

災藤の言葉を全て全て飲み下して、意味をよくよく噛み砕いた後、夜子は言う。

「……気をつけます」
「何かあれば私に言うといい。必ず力になろう」

「ありがとうございます」と、夜子は少し苦しそうに笑った。夜子にとって、あまりたくさんの気遣いは消化しきれなくて胃もたれするのかもしれない。
もらい慣れていない彼女は、こういう時、相変わらずぎこちなく笑う。

「本当は、私がずっと看病をしていたかったんだれど。あの子達にも困ったものだね。まさか管理長殿まで加わるなんて」
「はは、ありがたい限りです……」

本当に、と夜子は続ける。

「本当に有難くて、嬉しいんです……。だから、もし、よかったら、またがんばりますから、よろしくお願いします」

頬が少しだけ赤いのは、彼女の勇気の証だろうか。

「今度は倒れないように、ほどほどにね」

これをきっかけに、彼女がまた少し前に進めれば、夜子以外の獄卒が水面下で行っている戦いにも、少しは進展があるだろうか。


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20170626:体調管理編(ネーミングに問題あり)終わり。

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