その他夢 | ナノ






「趙は本当になまえちゃんが好きだよなあ」
と、春日さんは言い、趙さんはと言えばにっこり笑って私の肩を抱く。突然過ぎてバランスを崩し、完全にもたれ掛かる形となる。椅子から半分ちている。
私が文句を言うより早く、趙さんはアルコールの匂いのする口をかぱりと開いた。
「うん。そうなの」
他の男性陣はよく分からなくなっているようでゲラゲラ笑っていたが、サッちゃんだけは私を気遣わしげな視線で見た。が、一秒後にガンバレ!と拳を握られ目をそらされた。薄情だ。
一人また一人と寝落ちしていく中で、遂にサッちゃんは「じゃあ私帰るわね」と帰ってしまい、静まり返ったサバイバーに一人残された。正確には寝ている男四人と未だに私を捕まえている趙さんと私一人だ。
私はそっと回されている手にそっと手を触れる。腕の中から逃げようとするが全く外れない。ビクともしなくて軽く恐怖を感じるほどだ。グラスを煽りながらこちらを見ている気配がある。
「なまえちゃんって、いつも香水の匂いするよねえ、しかも結構お高めの」
「えっ、そんなことわかるんですか」
驚きすぎてつい趙さんの方を見てしまった。案の定めちゃくちゃ近い。趙さんは楽しげににっこりと笑ってみせた。サングラスの奥の目は酔っているからかやや潤んでいる。
「わかるよ。もっと言うと男物だってこともわかる。前の恋人のとか?」
「いやそんなの大事にとっとくタイプじゃないし、っていうかなんで今カレじゃなくて元カレと断定するんですか」
「今恋人いないのは知ってるもーん。じゃあなんで? そんなにこの匂いが好き?」
「いやこれは別にそんな大層なあれでなく」
「なに?」
そんな大層なあれではなく、ただ、好きな俳優が好きだと言っただけの香水だ。これ以外につけるものもないし、気に入ってもいる。そう答えると「フーン」と、聞いておいて興味があるやらないやら分からない声で返事があった。「趙さんはこの匂い嫌いですか」空気が重くのしかかる中頑張った質問だった。趙さんはことんと首を傾ける。
「いいなあ。そいつ」
やや不思議な響きだが、質問の答えと思えなくはない。趙さんにとっても嫌いな匂いでないならよかった。すっとぼけようと口を開いたが、唇を押し当てられて黙らされた。
「ウソかホントかわからないたった一言で、なまえちゃんを支配できちゃうなんて、羨ましいなあ」
触れるだけのキスだった。ぽかんと見上げていると、趙さんはいつも以上の上機嫌でとろりと笑う。
「でも今日は、こんだけくっついたから俺の匂いになっちゃったかな?」
助けてサッちゃん、これはやばいです。


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20211114

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