その他夢 | ナノ






夏だって言うのに、ずいぶん肌寒い朝だった。
下にもう一枚着てくるべきだったか、なんて空を仰ぐが、伸ばした首に冷たい風がぶつかってくる。
しかし、珍しい気候に目も覚めて、なかなかにいい朝だ。
夏だって言うのに秋みたいな陽気で、風がひやりとする。
いつもと違い過ぎて少し不安だが、その無駄な不安感すらも気持ちがいい。
気分がいいまま学校へついて、しかし、流石に少し寒くなってきた。
夏だって言うのに、通学して来たばかりの指先が冷たい。
教室についたら、コスチュームでも引っ張り出して羽織っておこうか。

「ん?」

ああ、あの後ろ姿。
いつもは暑そうだなあなんて思うのに、今日ばかりは便利な服だなと思った。
確かに、厚着してきて暑いのはどうにでもなるが、薄着してきて寒いのはどうにもならない。そんなに深い意味はないのかもしれないけれど、先生の合理主義の片鱗を見た気がした。
確かに合理的だ。

「おはようございます、先生」

声をかけると、くるりと振り返る。
眠そうなのはいつものことだが、いや、今日は心なしかサッパリとした顔をしている気もする。
先生も、少し気分がいいのだろうか?

「みょうじか。おはよう」
「今日は寒いですけど、ご感想は?」
「なんだそりゃ」
「いえ、私は少し面白かったので先生はどうかなと思いまして」
「の割には寒そうだが」
「そうですねえ、冬に死ぬほど寒いのはムカつく話ですが夏に肌寒いって面白いなあと、まだ面白がっていられている、ってところですかね」
「つまりもうすぐ面白がれなくなるってことか」
「どうなんでしょうね……先の事はまだ……」
「そうか」
「はい」

結局先生はどうなのか聞けていないが、呆れながらも笑っている。
私も笑う。いい朝だなあ。
夏服の袖から出ている肌に鳥肌が立ってきたのを感じる。これがなければ最高だと思うのに、そもそもこれが無かったら朝あんなにも楽しく通学していないのだ。
果のない矛盾を感じる。
私ではとても解決できそうにない。

「寒そうだな」
「そうですね、教室行ったらコスチュームでも羽織ります」

先生は、やはり機嫌がいい。
にっ、と笑ってポケットに手を突っ込んだ。

「……いいものをやろう」

そこから何かを取り出してこちらに差し出す。
長方形で薄くて、ビニールで包装されている。
何故、夏真っ盛りのこの季節、ポケットからカイロが出てくるのか。

「カイロ、ですね」
「ああ」
「もらってもいいんですか?」
「じゃなきゃ出さんよ」
「ありがとうございます。ちゃんとあったかくなるのかなこれ」
「おい、全部聞こえてる」
「ええ? 本当ですか? 聞かなかったことにして下さい」
「しょうがねえな」

聞いてみても大丈夫だろうか?

「何故、カイロを持っていらっしゃるんですか?」
「そんなに真剣に聞かなくても、何年も前のカイロじゃねえよ……」
「いや、半年位は経ってるかな、みたいな」
「お前な……」
「いや、もしかしたら今日天気予報を見たという可能性も感じてますよ」

プロヒーローたるもの、天気にも気を使わなければ、例えば天候が左右するような個性もあるだろう。
先生の個性は、まあ天気にこそ左右されないとしても、情報としては把握してないと、小道具準備や、敵と対峙した時の対応が遅れたりするんだろう。
あ、そう思うと先生が用意周到だっただけの気もする。
はあ、と先生は息を吐いて。「大した理由じゃないが」と前置きする。

「ムカつくだろ。前触れもなく冷え込みやがって」

とだけ言った。
ああ。
それか。

「……私を勝たせてくれるんですね。この、寒さとの勝負」
「ここからの寒さを凌げれば、面白い朝だったってことだけ残って気分がいいだろ」
「もうどっちかって言うと先生にカイロをもらったことの方が面白いと思うんですけどね……」
「そりゃよかったな」
「まあ、そう、ですかね?」

どうやら、相澤先生と私はなかなか気が合うようである。


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20160831:相澤先生、カッコイイ。

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