その他夢 | ナノ
「腹、減ったな?」
ひょい、と体を折り曲げてなまえに聞いた。なまえはその愉快そうな笑顔を見ながらそうかもしれない、と思った。
「はい」
「よし、何が食いたい?」
この人が他人、しかも子供の世話を焼く、と言うのは相当に珍しいことであるらしく、今まで紹介された何人かに「もしものことがあったらここに来い」と言われていた。優しい人がいるなあと考えていたが、それはどうやら、赤木しげるが世話に飽きて放置されたら頼って来い、ということだったと、最近気付いた。
今はまだ放り出されそうにない。しかし、拾われたのも気まぐれならば、捨てられるのも気まぐれであるのは道理だった。
「なんでも食べます」
「お前なあ、子供なんだからもっと子供らしくしろよ」
「……叶いそうにないわがまま言ったりってことですか?」
「おっ、いいじゃねえか。言ってみろ。叶えてやらァ」
これを勝負とみたらしい、赤木しげるは上機嫌だ。こういうことはたまに起こる。なまえが勝てることは稀だが、この勝負はなまえに圧倒的に有利だった。できないことは、この世界に山のようにある。死んだ人間に会いたいと言えば、確定で彼にはどうにも出来ない。
ただ、はじめからできないとわかっていることを言う気にはならなくて、なまえは少しの時間思考する。
「じゃあ、赤木さんの作った料理が食べたいです」
「ハハハハ! そうきたか……」
「どうですか? 叶いそうですか」
赤木はなまえの頭をぐしゃぐしゃと撫でて上機嫌に笑っていた。「そうか。この赤木しげるに料理を作らせるか」くくく、とその薄い腹を押さえてまだ笑っている。
「いいぜ、作ってやる。後悔するなよ」
「はい」
「で?」
「?」
「料理っつってもいろいろあるだろう」
「ああ……」
正直、まともなものが出来上がってくる予感がしない。こういう時はあまり踏み込まない方がいい。下手に材料も工程も多い様なものを頼むと自分の首を絞めることになりかねなかった。
なまえは必死にかつての両親が作ってくれていた料理について思い出す。
「ゆで卵……」
「ははあ、お前さては、俺を馬鹿にしてやがるな?」
馬鹿にしているわけじゃない。失敗しようのないものを選んでいるだけだ。ちなみに、固茹でで、と注文をつけると半熟で出来上がってきた。なるほど。「固茹でですね」と言うと額を指で弾かれた。
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20200501:赤木しげるとようじょ