その他夢 | ナノ






炎に声があるように。水にも声があるかもしれない。
どんな声だろうかと考えた時、彼女の作り上げた一曲が勝手に頭の中で鳴り始めた。これは、最近、滝だったり、川だったり、水たまりや、湖に、池、それからダムなど水の溜まっているものを片っ端から観察して彼女が作り上げた曲だ。強く形のない水のような一曲。
海へ空へ、自由自在にどこへでも飛んで存在して、何にでもなるのだ。
バーニッシュである彼女が、水を根底に据えた無限の可能性の歌を歌う。皮肉なようで、しかし、こんなことができてしまうから、彼女の作る音楽は人気があるのだろう。強いだけではどうにもならないところは、全て、彼女がなんとかしてくれている。
ちらりと彼女を盗み見る。木々の間を、枝の隙間を真っすぐ飛び去る鳥を見つめていた。次は、あれが題材なのだろうか。ともすれば、今度は、鳥の声が聞こえるような曲になるのだろうか。
切り取られ、抜き出され、彼女によって再構成された世界を通して、今彼女が考えていることを知る。その瞬間が、いつも楽しみだ。

「リオ」
「ん?」
「さっきの鳥、他のより動き鈍かったからなんとか捕まえられないかな」
「……」
「久しぶりにトリ肉なんて良いんじゃないかって……、あれ? なに? 笑ってる?」

僕は、左手で腹のあたりと、右手で口を覆って体を少し曲げている。真剣な顔で見ていると思ったら、考えていたのは夕飯のことだった。「いや、笑ってない」「いやいや、嘘じゃん」おかしいこと言ったかな、彼女は首を傾げて考え込んでいる。

「笑ってない」

繰り返しながら、自分の顔が笑ってしまっているのは知っていた。彼女はそんな僕を見て、「そんなに言うなら、そういうことにしとくけど」と、炎で弓矢を作り出し音もなく構えた。

「リオ、あそこに二羽居るから、」
「ああ、わかった」

 夜、簡単に調理されたトリ肉を齧りながら、「次は、鳥関連で詩でも書いてみようかな」と言うものだから、僕はまた笑ってしまった。


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20190613:リオくんに幸せになって欲しいだけのシリーズ。

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