その他夢 | ナノ






彼女の指先は、世界を作っている。
僕は隣でじっと座ってただ見ていた。ヘッドフォンを繋げてノートパソコンに向かってキーを打つ。画面には譜面が表示されていて、一つずつ音が足されていく。ここにあるものは、彼女と、それからただの電子機器で、僕にはそれ以外のものは見えてこない。しかし、おそらく、彼女にはもっとたくさんのものが見えているのだろう。見えているし、聞こえているのだろうと思う。それがなにかは、この曲が完成すると、少し、わかる。
 彼女は時折ぶつぶつと何かつぶやいて口ずさみながら。僕はそんな彼女の声を聞きながらたった二人でそこにいた。しばらくそうしていたのだけれど、その内、ぴたりと彼女の手が止まる。
どれだけ待っても動かないから、何事かと顔を上げる。見上げた彼女はぱちぱちと瞬きをして、何やら驚いているらしかった。いつもは隣にいるくらいでは彼女手が止まったりしないし、存在に気付いているかどうかも怪しいというのに。集中が途切れるだなんて、余程のことがあったに違いない。「どうした」言えば、「どうしたもなにも」と笑っていた。

「近いよ、リオ」

言われてみれば、肩も足も触れている。あまりに不思議で夢中になっていたせいで、前のめりになっていたらしい。画面にかかってしまっていた。


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