その他夢 | ナノ






「二人はどんな関係なんだ?」

とは、編入仲間の幸平くんの質問であった。私はほとんど考えもせず「腐れ縁的な?」と答えたのだが、その返答は叡山氏にとってたいへん気に入らないものであったらしく、私は理不尽にも呼び出しを受けて高そうなソファに座らされている。
何故、幸平くんに答えた言葉が、叡山枝津也に知られているのか。全くもって甚だ謎な案件だ。
出されたお茶はとても美味しい。それだけの救いでは、目の前、無言でこちらを睨む幼なじみの視線に耐え難くなってきた頃、ようやく叡山くんは言うのである。

「……もっとほかに言い方は無かったのか」

顔ごと斜め上に視線をそらして数秒考える。
考えたが、彼が納得しうる答えを探し当てることはできそうもない。

「……例えば?」
「たっ……」

私は視線を戻してお茶を啜る。叡山くんはぼそぼそと口の中で言葉を殺したり転がしたり、滑らせたりしている。
いつものことなのでぼうっと眺めているが、何かの拍子にハッとして、乱暴にテーブルを叩くのであった。

「うるせえ! 質問してるのは俺だ!!」
「……なら、幼なじみはどう?」
「…………ああそうだな。百歩譲ってそれだろうが。俺達の縁のどのへんが腐ってんのか言ってみやがれ」

まさしくこのあたりであるのだが、それを言ったらまた怒られそうだ。私は謹んで「言われてみれば思い当たるところがないかも」などと答えさせて頂く。叡山くんはちょっとほっとしたように胸をなで下ろして「だろうよ」と無理に得意げに言った。

「……」

我々はしばらく無言になる。
私は(理不尽にも)怒られている立場故下手なことは言いたくない。面倒事をより面倒にはしたくないのである。
叡山くんもそうであるはずで、用が済んで気が住んだのなら私を早急に解放すべきである。が、叡山くんはじっと私の顔を睨みつけたままなおも無言を貫き通す。

「なまえ」
「はい、申し訳なかった」
「それはもういい! それはもういいが……」
「……ん?」
「……」

叡山枝津也という男は、私になにをさせたいのか、はたまた自分は何をしたいのか。どう転んでもわからないのだが、今、何か言いたいことがありそうだというのはわかる。
私はお茶を啜りながら彼の言葉を待っている。

「……黙ってねえで、なにか、喋ったらどうだ」

実際無茶苦茶であった。
私はまた顔ごと視線を逸らして考えて「そろそろ帰ってもいいかな」と言った。叡山枝津也は眉をピクリと動かして、何かを必死に耐えながら。

「そんなに、帰りてえのか」
「そんなにっていうか、用事もないし」
「用がなければ幼なじみのところに居る必要はないってことか」
「叡山くんはきっと忙しいと思って」
「忙しくねえよ、緊急で連絡入ったりしなきゃ夜まで暇だ」
「貴重な休日を潰しちゃ悪い」
「休日より貴重なもんがあってな」
「……? なら余計に私は帰った方が……?」
「っ、なんでそうなる」

これ以上はやばそうだ。伊達に幼なじみをやっていない。まずそうな時はちゃんとわかる。私は真剣に、その理由を考え始めた。いや、考えない方がいい気がするのだけれど。それを指摘したら、もっと面倒なことになるのは目に見えていて……。それでも私はこっそりため息をついた後、「ごめん」と一つ事前に謝って続けるのである。

「まるで、私に帰って欲しくないように聞こえるけれど」
「……」

私と対面した時の叡山枝津也はしばしば黙る。か、怒り狂っている。のに、私をこうして呼び出すのである。これでは、あれこれ理由をつけて私に会いたいみたいじゃないか。
どんな反応になるだろうか。私は内心ビクビクとしながら叡山くんの反応を待っていた。
例のごとく彼は無言で、私の言葉を受けて俯いた。やがてそのままゆらりと立ち上がり、テーブルを乗り越えてこちらに詰め寄る。叡山くんの右手が、私の襟首を掴んだ。
がくん、と強制的に引き寄せられて、随分と距離が近くなった。

「責任とって、夜までそこにいろ」

こうなる前に、帰るべきだった。ここで断ろうものなら「俺にあれだけ言わせておいて」とかなんとか言って暴れ出しかねない。ここは頷く他なさそうだ。
私はまた一つ教訓を得て、仕方が無いかと少し笑った。

「とりあえず、気をつかったらお腹がすいたかな」
「…………俺はお前の召使じゃねえんだぞ何が食いたい?」
「(できるだけ時間かかるやつがいいな……)パエリヤ」
「いいだろう。その腰がぶっ壊れるようなやつを作ってやる。そこで大人しく待ってろ」

確かに気の許せる友人は少なそうであるが、いい加減に休日を一緒に過ごせる友人くらい作ればいいのに。
私は改めてソファに体を沈めて、眠って忘れることにした。困った幼なじみである。


-------------
20170905:えいざんくんみたいなのみてると恋愛で苦労して欲しくなる。病気。


×