turbulenceC/ウィンディ


可能性の話は得意だ。彼らよりもそういう話が苦にはならない。ウィンディの様子から察するに、リボルバーとは再戦したいはずだ。もし再戦となった時、そこでリボルバーに私の話をされたら、とてもとても都合が悪い。もし、そうなったら。そうなる前に、自分から話しておかなければならない。
私の腕の怪我はすっかり治った、ウィンディの方は相変わらずで、まだまだ全体的に痛々しい。右目は眼帯をしているから見えなくなったけど、体の怪我は見えているままだ。
どうするかなあ、などと私が外を眺めていると、後頭部になにかぶつかった。横を見ると、ころ、と包帯が転がっていた。「よう、」ウィンディが隣に座る。

「これを巻くくらいなら、お前にもできるだろう?」

私は包帯を拾い上げて頷いた。
そのくらいなら、力になれそうだ。
私は無言で包帯をウィンディの体に巻き始める。静かな時間が流れる。向こうの方をハルが通過して行って、ビットブートは興味深そうに寄ってきたが、ウィンディがエコーで追い払っていた。
ふたりだけになると、ウィンディは言う。

「……で?」
「うん!?」
「僕に話したいことがあるだろ」
「え! あー、ね! えー、あーーーー、……うん、ある……」
「何」
「……」
「話さないのか?」
「話す……」
「よし」

こちらは全くもって良くはないが、まあ、なんというか、隠し通しておくことは不可能だし、最悪のタイミングで黙っていたことがバレるのも嫌だ。もし、怒られたら怒られておいて、消されるんならそれもいいか、と開き直る。
うん。消されるんならそれもいいや。SOLに引き渡されるのはちょっと嫌だけど。

「いや、私、一切覚えがないんだけど、鴻上了見と、知り合い、みたい、なんだよねー……ははは……それでその、加えて、AI的なことすごい苦手だし、もしかして、人間だったら、どう、しよっ、かなー、みたいな……?」

ウィンディは無反応でじっとしていた。最悪、人間、と聞くなりデータマテリアルの藻屑にされてもおかしくはないと思っていたのだが。
ふと、彼は自分の腕に巻かれた包帯を見て。

「お前は、本当に手足を使うのは得意だな」

データを扱うのは致命的に下手くそだが。とウィンディは続ける。その通りだ。六属性のイグニスたちの中に突如湧き出すように紛れ込んだ私。イグニスではもちろんないし、出来損なったAIデータだと思っていた。それだけのものだと。それが、ここに来て。

「で?」
「えっ」
「それが?」
「いや、それが、だから、」
「やっぱり人間の側につきたくなったって?」
「それはない、そうでなく、て、」
「お前、何を心配してるんだ?」
「何を……」

私はウィンディに包帯を巻き終えたから正面に移動した。ウィンディはと言えばいつも通りに呆れ返って、私の右腕を掴む。
なにをするのかと見ていれば、余った包帯を巻いてくれた。怪我は治っているが、何故か、体の痛みが僅かに引いた。

「例えば、いらなくなった、ときに」
「……」
「ウィンディに、データを引き継いですら、貰えないこと、かな?」
「それから?」
「引っ張って行って貰えなくなること、とか」
「そうか」

ウィンディが何を思ったのか分からない。私の不安は正しくその二点だった。突き詰めれば一点だ。とにかく、ウィンディのそばにいられなくなるのが嫌だ。ウィンディと話したりじゃれたり出来なくなるのが、心の底から嫌なのである。
彼は、この件については、何も言って来なかった。ただ始終穏やかに話を聞いた後──

「──ミラーLINKVRAINSを、散歩でもするか」
「えっ」

ウィンディは、いつもと同じに私に手を伸ばした。伸ばして、くれていた。

「来い」

私もいつも通りに手を掴んだ。
正直、どっちでもいい。私は私自身が人間でもAIでも、どっちでも。どっちでもいいから、許されたい。許されたいだけだ。どうか、私が、最期まで、彼と共にいられますように。そう、願い続けること、そうであることを、許して下さい。


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20190125:無意識に祈ってしまう系AI
 
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