turbulence/ウィンディ


人間側に宣戦布告をした日のこと。なまえは僕らを出迎えると、出先で積んできた花でも渡すように、ぼろぼろのウィンディを手渡されていた。
なまえの狼狽え様は、見ているこっちが痛々しくなるほどだった。オーバーヒート寸前のなまえにライトニングはエコーから取り出した映像データも見せ余計に混乱させ、冷静になる間も与えられずウィンディの近くに居ろと同じ部屋に放り込んだ。
だから僕は、彼らがどんな話をしたのか知らない。ただ、怪我をしてすぐのウィンディは相当荒れていたから、もしかして、酷い目にあってやしないかと心配になった。これでいいのかとライトニングに聞くと、ライトニングは「彼女の痛覚はかなり鈍いから問題は無い」とだけ言った。
ちらり、とボーマンを見上げると、ウィンディとなまえが居る部屋を睨み付けていた。僕も同じようにしてみたが、僕らにできることはついに思いつかなかった。



ライトニングは、近くに居ろ、と言った。言われなくても、私にはそれしかできなかった。普段データストームでばかり遊んでいて、もっと、彼らを修復できるような力を磨いておかなかったことを後悔した。ウィンディの苦しげな声を聞くと、すがり付いてでも一緒に行かなかったことを後悔した。恨み言を聞く度に、いつも、いつも。

「いい加減何か喋ったらどうだ」

形だけはなんとなく戻ってきたウィンディからの呼びかけに応えようと思うのだが、何を喋るべきかがわからない。ウィンディが傷を癒している水場のすぐそばに座って、でも、ウィンディには、背を向けている。

「なにを……喋ったら……、」

背を向けたまま喋ると言うのも失礼な気がしたし、ウィンディにいらない誤解をされるのも嫌で振り返ると、引っ込んでいた涙がまた溢れていた。このデータ一体どこから来るのだろう。ちっとも止まる気配がない。

「まだ泣くのか? 飽きない奴だな」
「だって、めちゃくちゃ痛そうだよ」
「そうだな。でもまあ、そろそろ泣くなよ」
「無理だぁ……」

ウィンディの憎しみは余すことなく人間に向いていて、私は本当にここでこうして膝を抱えていただけだ。役立たずにも程というものがある。足を引っ張りもしない(してないはず)、かと言ってプラスになることもない(最近よく壁を壊す)、いざと言うときに戦力になるかも微妙(自慢じゃないがデュエルにもあまり自信はない)。隣にいて泣くくらいしか……。

「なんにもできなくてごめん」
「だから、それは知ってるっての」

ウィンディはばさりと水中から腕を持ち上げて、私の頭を適当に撫でた。こんなことをされたのは初めてだ。私はだんだんなんで泣いているのか分からなくなってきた。ああ、もう、ほんとうに。

「私だったらよかった」

怪我をするのも負けるのも消されるのも。人間との確執も憎悪も嫌悪も。全部私の命ひとつで足りたなら。

「え──、」

ウィンディの方を向いている限り涙が止まりそうもない。どうしたものかと目を擦っていると、私はふわりと宙に浮いて、水の中に叩き落とされた。苦しくはないけど驚いて、慌てて顔を上げる。

「──」

ウィンディの胸のあたりと私の顔とがぶつかった。

「バカだな」

ぐ、と体中に圧がかかる。ウィンディが、私の体を抱え込んでいる。今まで助けてもらったり運んでもらったり引きずってもらったりしたけど、これはそのどれとも違う。

「バカだよ、お前は」

ほんとにバカだ、と、ウィンディは繰り返した。
言いたいことは別にあるような気がして、そのデータが流れて来はしないかと、私もまたぐ、とウィンディに体を押し付けた。何も聞こえない。聞こえない。聞こえないけど、ここにあるものは、きっと、同じ。


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20180121:これが夢小説というやつです。
 
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