ガールズトーク/クロウ


カフェでテーブルを囲む、女3人が盛り上がる話といえば。

「なまえは、好きな人はいないの?」

いやいや、だってそんな素振りもなかったし、確かにどんどん可愛くなっていくな、とは思っていたけれど。
それは、サテライトからシティに入れたからだと思ってて、いやそもそも俺はなまえの話を立ち聞きする予定もなくて。でもとっさに隠れてしまったってのは、その会話の内容をこっそり聞いていたかったからで。

「ああ、そうだね、いる、かな」
「え! 本当に?!」
「誰? 私たちの知ってる人?」

心臓がバクバク言ってる。
長年の片思いも諦める時が来たのだろうか。
俺の心境になどお構い無しで、アキと龍可はなまえに詰め寄る。
なまえは少し困った様子ではあったが、特に隠しておきたいという雰囲気ではなかった。

「告白は? しないの?」

アキの楽しそうな声がする。
畜生その幸せ者はいったいどこのどいつだ?

「今のところ、予定はないかなあ」
「え、どうして?」
「んー、今は、大変だと思うから」
「……そうなの?」
「私の方でもがんばらなきゃいけないことがあるし、だから、告白する予定はないよ」
「……」
「そんながっかりしなくても……」
「でも、私たちがなまえの好きな人を知っているくらいならいいわよね!」
「うん! 応援する!」
「あー、いやー、その、」
「どうしたの?」
「さっきからほら、お迎えがね」
「「お迎え?」」

はっ!
全力で聞き耳立ててる場合じゃない。
俺は何事も無かったかのように電柱の影から顔を出す。

「っ、よ、よう! も、も、盛り上がってんなあ?」

声が裏返る。
何故こんなことに。
ただ、今日はなまえとマーサのところへ顔をだそうと約束していたから、ここで待ち合わせていただけだった。
なまえは俺の姿を確認すると「ちょっと待ってね」とだけ言って、他2人にいくらか金を渡した後、荷物を持ってこちらへ向かってくる。
程なく後ろを振り返って、もう1度彼女らに手を振った。

「ありがとう、迎えに来てもらっちゃって」
「……おう、気にすんな」
「……」
「……ん? どした?」
「ううん、もしかしたらさっきの会話聞いてたかと思って」

ぎく、
どうするべきか。
だが、どうするもこうするも、聞いたらまずいような話はしていなかった。
俺が個人的にかなり気になる内容ではあったものの、嘘をつくほどのことは無い、ように思う。
どうせ嘘など苦手なのだから、本当のことを言うことにしよう。

「わ、悪いな、その。好きなやついんだろ?」
「やっぱ聞こえてたかあ」
「悪い」
「そんな、クロウは悪くないよ」
「で、よお、聞いちまったついでに聞くんだが」
「うん?」

首をかしげてこちらを見上げる。
ゆるゆると微笑む顔は少し赤くて、思わずぐ、と言葉に詰まる。
ずっと見ていたい、切り取って保存してしまいたい、つまりなまえのことが好きで仕方が無い。
なまえにとっては聞かれてもいい話題だったかもしれないが、俺にはかなりショッキングな出来事だった。
その先は聞きたくない、が、聞かずにはいられない。

「俺の知ってるやつ、か?」
「え、」
「遊星とか、ジャックとか」
「あ、いや、えーと、ね?」
「ああ、いや、答えたくねえんなら別にいいんだ。無理に言えとは言わねえよ」
「……あの、クロウ?」

なまえは困っている、困らせたいわけじゃなかったが。聞いても仕方が無い、俺はそいつとの仲を応援できないだろうし、アドバイスなんてできるはずもない。
話を聞く、なんてのもただただ辛いだろう。

「クロウ、」
「なまえ?」
「クロウ」
「っ、おい、」

なまえは、そっと俺の手をとって、ちゅ、と指先に唇を。
いや。
いやいや、なんだこれ?

「……なまえ?」
「元気だして欲しいなと思って。気持ち悪かった? ごめんね」
「そっ」

そんなわけねえだろ。
その言葉は声にはならなかったが、なまえには伝わったらしく、「それならよかった」と安心したように笑っていた。
なまえって。
あれ?
こんなことを誰にでもするような奴だったか?
いや、そんなことはなくて、どっちかっていうと人見知りだったと記憶していて。
なら今のは?
と言うか、それは、俺が拒否しなかったからそんなに安心したみたいに笑ってんのか?
そうだとしたら。
そんなまさか。

「なまえ?」
「ん?」
「いや、その、い、行こうぜ! ガキ共も待ってるだろうしな!」
「うん」

誰を好きでも、どうせ、諦めること出来ないんだろう。
それに。
もしかしたら。
その相手っていうのは。


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20160726:クロウが好き。BFも好き。
 
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