「せんせい」/ボーマン


私には割と自由な時間が多い。もしかしたらビットブートのどれかが私を監視していたりするのかもしれないが、でも、何を咎められたこともない。こんな暇な時、闇のイグニスならばよく新しい遊びを考え出していたものだけれど。私もやってみようかな。人間の遊びでもいいかもしれない。おにごっこ、かくれんぼ、それからええっと、おままごと−。

「なまえ」
「あれ? ボーマン」

これで暇ではなくなった。私は振り返ると、ボーマンが一人で私を見下ろしている。首が痛む気がして、ボーマンの腕に乗せてもらった。ぺたりと座り込むと、いくらか話しやすい。

「どうかした?」
「ハルを怒らせてしまったようなのだが」
「へ?」
「ハルを、怒らせてしまったようなのだ」
「う、うん。そうなんだ……」
「ああ……」
「え、いや、でも、なんでわざわざ……」

私はキョロキョロと周囲を見回す。私しかいない。ボーマンは私に話をしているし、私に向かって思い切り落ち込んだ表情を落としている。

「私は、どうするべきだろうか」

これは間違いなく意見を求められている。確かに、こんなことを相談できる存在は限られているし、一番暇そうな私には、一番親身になってあげられる時間がある、というわけ、ではある、が……。「……それは、あれ、じゃない?」ボーマンが期待に目を開いて私を見下ろす「あれ、とは?」

「どうしてそうなったのか教えてもらわないと、なんとも言えないよ」
「ふむ。その通りだ」

ボーマンは近くの瓦礫に腰掛けて話し始めた。



「ははあ」つまり? ハルの後ろにくっついて歩いていたら鬱陶しがられた、と。私はなるほど、と頷いてからハルの気持ちを想像した。
光のイグニスに作られた彼はビットブートよりも繊細な印象がある。だから、光のイグニスの指示に従うことに疑問はないようでも、ボーマンが兄であることとか、ボーマンが兄であろうとすることとか、AIとして優秀だとか優秀じゃないとか、そんな難しいことが引っかかっているのだろう。複雑に考えすぎてしまって、感情的になってしまっただけな気がする。
大した問題ではなさそうでよかった。
私はちらりとボーマンを見上げる。私たちの立場を考えたら難しいことにも見えるけど、ボーマンが私のところに来てまでハルとのことを気にかけているのなら、別に、なんの心配もいらないように思えた。ハルが感情的になったのも、捉えかたによればプラスになる。彼らは兄弟としてそこそこ上手くやれているようだ。
私は気の抜けた笑顔を作って、さらりと言った。

「……大丈夫じゃない?」
「な、何故、そんなに軽く言えるんだ?」
「え、いや、ハルが君の弟だから」
「そして、私がハルの兄であるから?」
「そうそう」
「なら、もう一度ハルに会いに……」
「あ、それは待って」
「駄目だろうか」
「最終的にはいいんだけど、今の今だと難しいよ。私がちょっとハルと話してくるから。その後行くといいんじゃないかな」

私は立ち上がって体を伸ばした。

「……なまえは」
「うん?」
「……いいや、ありがとう。あなたのところに来て正解だった」

ありがとう、か。私は言い慣れないのがバレないようにそうっと伝えた。「どういたしまして」

「じゃ、行ってくるね」

ありがとう、と、ボーマンは繰り返した。
小さく、何か言われた気がしたが、名前だったかな……? 音声を拾うことができなかった。


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20190117:「ハルも困ったことがあれば先生に相談するといい」「え、誰?」
 
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