名前のない物語/ウィンディ


なんとか元の形になった。私はそれを確かめるように、正面に座る彼の肩から腕を包帯の上からなぞる。両腕両足まで行ったところでウィンディの右手が私の腕を掴む。無事に修復できた方の手だ。

「くすぐったい」
「ごめん、つい」

元の形、ではあるけれど、元の姿には程遠い。修復跡は凄まじく、体の調子は良くはないはず。私はどうにか笑って、やめろ、と言われなかったのをいい事に彼を象徴する、頭の先に手を伸ばす。ウィンディは抵抗せず、呆れもせず、大人しく触られている。私の手の形に合わせてするりと伸びた後、また元の形に戻る。これくらい簡単なら良かったのに。


「気が済んだか」
「気が済む、ことはないと思う」
「まあ、お前はそういうやつだよな。正直、お前がこちらにつくとは思わなかった。……お前、あいつと仲が良かったからな」
「仲が良い、って話になるなら、私は君とも仲が良いつもりでいたけど」
「なんだ? もしかして単純に好感度の話になるのか? そりゃ光栄だね」

光栄、なんて言葉が使われたのが面白くて、なんとなく肩の力が抜けた。ああもうすぐ、彼らはここに来るのだろう。そうしたらきっと、ボーマンやハル、ライトニングやもちろんこのウィンディも、戦うのだろう。

「なんだよ、まだ続くのか?」

またウィンディに手が伸びそうになったが、そう言われて動きを止める。さすがにもうやりすぎだ。いくら不安だからって、どれだけ彼らに触れたって、これがどうにもならないことは知っている。

「なまえ」

言われて顔を上げると、ウィンディに深い緑色のマントを渡された。私は「うん」と小さく頷く。全部を振り払って誤魔化すみたいに、大袈裟に布を広げた。ばさ、と翻る。

「……」

数秒、片目だけのウィンディと見つめ合っていた。いくつか言葉を交わしたような気がする。なにも交わらなかったような気もする。しかし、私達はよく似た宝石を胸に抱えていて、その重さを、確かに分かちあったと思う。
ウィンディは私の横を通り過ぎて、ふと、肩の辺りに指先で触れた。「じゃーな」と言いながら、とんとん、と叩かれた肩。何かデータを受け取った。「?」私の処理能力じゃ上手く解析できなくて、ぼんやりとしかわからない。これは? 考えている間にもウィンディは歩いていってしまうので、なんとなく、の解釈のまま返事をする。

「どういたしまして」

ウィンディはひらひらと手を振った。
間違い、ではなかったみたい。


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20190110:無理…
 
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