篝火の夢07(了見)


映画の話をしていたし、観たい映画でもあったのかもしれない。しかし、連れてこられた先は映画館ではなかった。

「……? なん? 奢ってくれるの?」

汚れ一つないガラスケースの中に並ぶケーキ達がひたすらに眩しい。どうしてケーキというのはこうもきらきらしているのだろう。見ているだけで胸があたたかくなる。
了見は隣で得意気に言った。

「一人二つだ」

二つもいいのか。
ではなくて。

「え……? なに……? もしかして了見、ハノイのみんなにパシられてるの?」
「私達がケーキ担当なだけだ」
「達? その、ハノイパーティ私も参加する感じなの? いつの間に?」
「さっさと決めろ」
「ハノイの人数かける二個?」
「そうだ」

何故、ホールケーキじゃないんだろう。私は了見の顔とショーケースの中身を交互に見る。いや、突っ込むべきところはホールケーキがどうのこうのとかそういうことじゃあなくって、それは一体なんの会なのか。とか、なんで私まで、とか、私が決めるの? とか。

「了見もケーキ係なら半分選んでよ。と言うか、自分の分くらい好きなのを頼んだら?」
「お前が決めろ。これは決定事項だ」
「なんでさ……」

了見から返事はなかった。なにやらすましてはいるが、これきっと、どれがいいのかわからないとか、ケーキに詳しくないからとかそういう理由なのだろう。私は再びショーケースに向き直る。

「あとはなんの係があるの?」
「買い出し」
「うん」
「部屋の飾り付け」
「へえ」
「その他料理」
「それスペクターやってそう」
「スペクターはサンタだ」
「待って相当面白くない?」
「ああ」
「あともしかしなくても、それクリスマスパーティの用意だね?」
「? それ以外にないだろう」

ハノイの騎士の、クリスマスパーティ……。誰の発案かわからないが相当面白いことになっている。私も同伴できるらしいから、気合を入れてケーキを選ばなければという気持ちになる。いや、そこまでやってだからなんで盛大にホールケーキじゃないんだって気持ちは拭えないが。

「まあいいや。適当に選んじゃうよ?」
「任せる」
「すいませーん、全部一種類ずつ下さーい!」
「おい」
「え?」

ダメかな、と私が振り向くと、了見は仕方ないかと息を吐いた。何事も物は試しである。言ってみるもんだ。夢がひとつ叶ってしまった。
店員さんは一瞬目を丸くしていたが、楽しそうに笑って「かしこまりました」と言ってくれた。了見は何を思ったか私にはここで待つように言って、ふらりと店の外に出て行ってしまった。
ケーキを受け取るのと同じタイミングで戻ってきた了見は、両手になにかスーパーの袋を提げていた。なんだそれ?

「私に無理を言ったのだから、お前もなにか背負うのが筋だろう?」

袋の中身を覗くと、砂糖とバターと薄力粉と卵と……。

「理解したか? なまえ」
「……」

今度は私が、仕方ないかと息を吐いた。余計なことは言うものじゃない。


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20181215:ハノイもみんなで仲良くしてよね。
 
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