篝火の夢06(スペクター)


私はイグニスたちのことをよくわからないよく知らないと言ったりするけれど、実は人間のこともよく知らないしよくわからない。昨日、了見から電話がかかってきた。
何かと思えば、以前渡していた映画の割引券の期限がどうのという話で「お前のことだからどうせ使っていないんだろう」と人間の友人が少ないことを強調した後「使い切るのを手伝ってやる」と誘われた。明日だそうだ。
私を誘うんだから了見こそ相当友達がいない。そもそも、その割引券は使い切ってしまってもうない。
Aiと映画に行った後、もうひとり先着で行けるよ、と言ったら数日と経たず不霊夢が来た。だからもうない。
了見はしばらく黙っていたが「とにかく明日は出かけるぞ」と電話を切った。まだ返事をしていないのに。とは言え、前日から予約が入ることなどそうそうない。こんな律儀なことをするのは藤木くんか了見くらいのものである。だからまあ、別に確認されずとも暇をしている。
次の日、身支度を終えて外に出た。

「おはようございます、なまえ様」
「おはよう、来てたならインターホン押してくれたらいいのに」
「いえいえ。急かしてしまうのも悪いですから」

約束の日の朝、いつもどうしてか迷子になる私は、早めに家を出ようと玄関の扉を開けた。開けると、正面に恭しく礼をするスペクター。立ち居振る舞いは美しいが、私の家の玄関先が庶民的なばかりに何度見てもただの不審者だ。

「また迎えに来てくれたの?」
「ええ。了見様が心配されますからね」
「なんかごめんね。余計な手間」
「確かに余計な手間ではありますが、私は案外楽しんでいますから。お気になさらず」

それならいい、のか? 全くなにもよくはないような……。しかし、スペクターがぺたりと笑顔を貼り付けているので私も同じように笑っておいた。
それにしてもなんだって了見はわざわざスペクターを迎えに寄越すんだろう。そんなに心配なら了見が迎えに来たらいいと思うのだが。

「ところで、光のイグニスに論文のデータを盗まれたというのは本当ですか?」
「そういう言い方すると大事みたいだけど、昔やった宿題……なんていうの? 夏休みの友とか盗まれたみたいな感覚だよ。大したことないし、なんか彼ら楽しんでるみたいだから大丈夫」
「相変わらずイグニスと遊んでいるのですね」
「遊んでるっていうか、遊んでもらってるって言うか遊ばれてるって言うか?」

数日前はアースが恋愛相談に来たし、不霊夢は特撮映画を一日中見ていた。いや、遊んでもらってもいないな。彼らは自由にやってきて、自由に過ごして、時々家主の私に構うくらいだ。

「たまにはこちらにも遊びに来てください」
「ん? うん、言っておこうか」
「いえ。イグニスたちではなく」
「あ、私? そうだね、たまにはね」
「ええ。よろしくお願いします」

待ち合わせ場所まで私を送って、スペクターはどこかへ消えて行った。別れてすぐあとに了見が来たから、「わざわざ迎えに来させなくてもいいのに」と言ってみる。言ってみると、了見はじっとこちらを見下ろして「何の話だ」と本当に何も知らない時の顔をしていた。
私はきょと、と了見を見上げて「さあ、わからない」と有耶無耶にしておいた。了見は不満気だったが、言いたくないのが伝わると何も聞いては来なかった。
今度、スペクターにはお菓子でもあげようと思う。


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20181212:遊んでみたい
 
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