free,(2)/エド


「はい、差し入れ」

デッキの調整をするエドに、なまえはよく甘いものを差し入れる。
そのほとんどが彼女が作ったものだったりして、完成度もなかなかのもの。
ただ、まるでそれが義務であるかのように持ってくるため、エドは少し、貰うのをためらった。
その様子に気付かないような少女ではなく。

「あ、いやべつに、今すぐ食べろって訳じゃないから、な、なんでそんな顔? もしかしてこれ好きじゃない?」
「いいや。君がくれるものなら何だって嬉しいさ」
「あれ? あ、そもそも来たのが迷惑だったかな」
「いいや?」
「……ん?」
「こっちへ」
「んん?」

エドに呼ばれて近くへ寄る。
彼はなにやら気に入らないことがあるらしい。なまえは、このあたりで、もしかしたら過度に差し入れをし過ぎかと、体重が増えたとかそんなことかもしれないと考える。
それは怒るし困るだろう。
性格上食べないわけにはいかないのだろうし、いや、エドならば丁寧に断ってきそうな気もする。
近付くと、隣に座るように促される。
作ってきたクッキーを持ったまま隣に座ると、クッキーを自分でひとつ食べたあとに、もう一つつまんでなまえの口元へ。
なまえは口を開けてそれをおとなしく食べるが、エドが何を訴えたいのかいまいちわからない。

「どうだ?」
「我ながら悪くないかと……」
「これは僕の勘で、もしかしたら間違っているかもしれないが」
「うん」
「僕は君がそこにいるだけで居心地がいいんだ。わざわざ差し入れを持ってくるなんて、そんなマネージャーみたいなことをする必要は無い」
「あー、えっ、と、それっていうのは」
「違う。いらないって言ってるわけじゃあない」
「うん」
「僕は心配しているんだ。元々単独行動主義の君が、僕に付き合って無理をして、勝手に疲れられても困るんだよ」
「エド」
「君は君が好きなようにしていいんだ。僕は勝手に君を好きでいるんだから」
「エドってば」
「なんだ、さっきから、僕がまだ喋って……」

なまえは、顔を真っ赤にして俯いていた。
こちらをみているエドに気付いて、さらに顔を逸らす。
それでも。

「ふ、どうした?」

のぞき込むように見てくる彼は意地の悪い、しかし幸せそうな微笑みを携えて、この状況を楽しんでいる。
こんなに照れて嬉しくなった時点で、なまえは負けたも同然だった。
視線に耐えかねて、半ば飛びつくようにエドの胸に。

「僕もそれなりに好かれているということかな」
「それはその通りだけど、差し入れの件は、無理してるわけじゃないよ。ただ、私もエドに好きでいて欲しいっていうか、なにかしてなきゃ落ち着かないって言うか」
「ふーん?」
「たっのしそうだなぁ、あと、できればだけど」

エドの掌が背中を撫でている。
無理をしているつもりは無い、ただ、喜んでもらえたらいいなという気持ちだけだ。でも、結果無理しているように見えたのなら、やってほしいことがある。
なまえもそっと背中に手を回して、言う。

「……食べてくれると嬉しい」

そうすることで、なまえの小さな努力は報われるのだ。
穏やかななまえの気持ちとは対照的に、ぴき、とエドは一瞬強ばって、それから「君ってやつは」とそっと体を離した。
少し不安そうに見上げるなまえに、ひとつキスをして。

「いつもありがとう、ああは言ったが、本当は楽しみにしてる……」

ちゅ、と、角度を変えてもう1度。
なまえも笑ってありがとうと言いたかったが、何度もキスをされてそれどころじゃあなくなってきた。

「あの、エド?」
「ん? 君を、だろ?」
「うん?」
「心配しなくったって、残さず食べてやるさ」
「いやそれはくっ、」

クッキーの話ではなくなってるよね?
彼女の言葉すらも、エドの中に飲み込まれた。


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20160720:なんかこう天井知らずの可能性を感じる
 
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