篝火の夢01(ウィンディ)


迷子になる、は正しくない。迷子になっていた。という表現ならまさしくそう。
デンシティは入り組んでいるし、LINKVRAINSは自由度が高すぎる。
私は近くの自販機で温かいコーヒーを買って、ガードレールに体を預けた。空を仰いで息を吐く、冬空の澄んだ青色がぼんやりと白く滲んで、冷たい風が吹き抜けて行った。
正しい道を探すのは、この休憩の後にする。
この性質で死ぬほど困ったことは無いのだけれど、私のこれは、AIたちにとっては意味のわからない性質らしく。

「LINKVRAINSでもお前達の世界でも周りにあるのはただの情報だろう。どうして迷うことがあるんだ? ……ははーん、さてはお前、情報処理能力に欠陥があるな?」
「あれ? ついてきてたの?」
「ついてきてたの? じゃあない。どーせ迷子になるだろうからついていてやったんだ。僕が暇だからついてきたわけでは断じてない。感謝して欲しいくらいだ」
「それはありがとう」
「行先は役場だったな」
「完全に迷ってから出てきたことに悪意を感じるけどありがとう」
「悪意なんてないさ。ただ、原理が分かればお前の方向音痴をどうにかしてやれるかもしれないと思っただけだ」

ウィンディの厚意は相変わらずにちぐはぐで分かりにくいが、つまりは私を観察していたらしい。「なにかわかった?」聞いてみるが「やっぱり欠陥としか思えないね!」と吐き捨てられた。「こういう街に住む才能が皆無、とも言うかもしれないな」AIの言葉だけあって、大きく否定に入れない。否定する理由もない。そうかもしれない、と思うことは多々ある。

「それはともかく、ひとまず来た道を戻れよ。このままじゃ、いつまで経っても目的地に着けないままだ」

言葉はともかく助けて貰えるらしい。そんなにありがたいことは無い。彼ならばもしかしたら、私の壊滅的な方向音痴を治すことが出来るのかもしれない。「よっしゃ」立ち上がって歩き出す。「そっちは来た道じゃない」「ええ?」「もしかして寝てるのか? 僕の話を聞いていなかったのか?」ウィンディは私を睨み上げて肘を蹴った。痛くはないが痛い気がした。

「ならこっちだ」
「これで間違えたらとうとう手に負えないね」

笑うしかなかったから笑っておいた。

「これに懲りたら一人で出かけようなんて思うなよ」
「そういうわけにもいかないよ」
「なまえ」
「うん?」
「人間の平均程度の処理能力もないお前のためにもう一度だけ言ってやる」

途中見かけたゴミ箱にコーヒーの空き缶を捨ててウィンディを見下ろした。赤い瞳をすっと細めて、私には彼が楽しんでいるように見えた。

「これに懲りたら一人で出かけようなんて思うなよ」

いいな? とウィンディは念を押すので、「またお願いしますね」と返しておいた。

「それでいい」

ウィンディは満足そうに進行方向を見詰めて笑った。


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20181129:イグニスに夢を見過ぎているシリーズはじめました。許されたい。
 
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