にじいろのくに/ヨハン


何もかもを許してくれそうな、優しい緑色の視線が宙をさまよう。見ていると、そのうち、視線の先にあったものが首にでも巻きついてきたのだろう。くすぐったそうに目を細めて、私などいないみたいに笑っていた。
ヨハンが見ているものは、カードの精霊と言うらしい。なんでも十代にも同じものが見えているらしく、二人が合うと必ず何も無い場所を目で追いかけて、そのうちばちりと彼らは同じ場所を見るのである。二人のカードの精霊(曰くルビーとハネクリボー)がそこでぶつかって戯れているのだろう。
私はじっとヨハンの首のあたりを注視する。なにもいない。もうそこにはいないのかもと足元を見ても、やはり。

「あ、おい、ルビー!」

突然、ヨハンが慌ててこちらに手を伸ばしたから、私はびっくりして目を丸くした。ぱちぱちと瞬きをするが、やはり何も見えない。ただ、ヨハンが私の膝の上からなにかを持ち上げるような動作をしただけ。何を焦っているのだろう。説明もないまま、私ではないなにかに向かって指を立てる。

「いいか? ルビー。そこはダメだ。絶対、絶っ対、ダメだからな」

もしかして、今私の膝に精霊が乗っていたのだろうか。だとしたら、見えなかったとしても嬉しい。いいやもしかしたら、見えないからこそ、ヨハンと、あるいは精霊達と共有できるものがあるかもしれない。
私はそうっと目を閉じる。

「? なまえ?」

ヨハンが小さく私を呼んだが、気にしないことにする。
ああ、彼にはこの姿が、馬鹿らしく見えるだろうか。

「おいで」

両腕を前に伸ばして、掌を緩く開く。何が起きているのか、私にはわからない。実際ヨハンがバタバタとし始めても、私は私の体に異変を感じることは出来なかった。私は、できない。けれど。

「ルビー! 駄目だって、っておい、お前らまで!」

ヨハンが私の前でたった一人で騒ぐから、私はようやく少しだけ笑った。

「こら! そんなこと俺だってできないんだからな!?」

一人で息を荒くして、私はなんだかくすぐったくて肩を竦めた。

「ったく、あいつら……」

なにがあったかわからないが、ヨハンが大きくため息をつくのと同じタイミングで、体がひやりと冷たくなった。確かにここにいたのだろう。

「もういなくなっちゃったの?」
「ああ、デッキに戻ったよ。だから、なあ」

とても優しい何かに包まれていた。宝石のような虹のような輝きの中にいた。どうしてか、涙が零れそうになった。だから、まだ目を閉じていた。乞うような声が続く。
なるほど。

「もう目を開けて、またこっちを見ててくれよ」

ルビーには、また、膝の上に乗ってもらわないと。


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20181123:暁美先生にリク貰ってたヨハンです。加筆修正版。精霊見たいけど見えない夢主とヨハンくんのほのぼの、でした。
 
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