お友達と呼べなくもない/ウィンディ


その世界を見つけたのは。
(その人間を見つけたのは。)

「ここは僕の世界だ」

開口一番、挨拶もなしに、それだけ言われた。おそらく、暗に、だから出て行けと言われている。会話ができそうで安心するが、彼が私にとっていいひとである保証はないし、多分ひとではない。
(人間はきょとんと僕を見上げて、僕が言いたいことを理解した様子だった。頭の良い奴は嫌いじゃないが、こいつが僕にとって都合が良いように動くとは限らない。)

「ごめん、迷っちゃって。出口、教えて欲しいんだけど」
「はあ? 出口? 来た道を戻ればいいだけの話だろう?」

謝りながら両手を上げたのは、敵意がないと示したかったからだ。しかしそのせいで、私は両手を上げたままきょとんと目を見開く変なやつになってしまった。
(頭がいい上に賢明だ、そんな考えを改めさせられる。敵意がないことはわかったが、帰りたいだけならいつまでも同じ場所をフラフラしている必要などない。今も大概だが、先程までのこいつは完全に不審者だった。)

「そうしてたつもり、だったんだけどね……」
「ふうん? 方向音痴ってやつ? ほんとはどこに行くはずだったんだ?」
「ブルーエンジェルイベント会場」

私はデュエルディスクに入っている座標データを引っ張り出した。表示された画面を、彼、なんだろう、緑色の、風をモチーフにしたような小さな生き物がこちらへ近付いてきた。
(見せられたデータを確認した。どれどれ。引くほど見当違いの場所に来ていることに、この人間は気付いているのだろうか。見上げると、ぱちりと目が合った。見た目はやはり、頭が良さそうに見えるのに。)

「わかる?」
「当然だ」
「……案内してもらえない?」
「それ、僕になんのメリットがある?」
「うーん、なんとか、出口まででも。私があなたにしてあげられることは思いつかないけど、できることがあれば、なんでも言ってくれたら」

やってあげられるかはわからないけれど、と続けると、風っぽい小さなひとは「うーーん」と何かを考え込んだ後、座標データをデュエルディスクに押し込んだ後、自らもディスクに半分体を沈めた。
(この人間に何を期待したでもないし、僕だって暇ではないのだけれど、息抜きくらいにはなるかと引き受けることにした。エコー以外と散歩をするのもたまにはいいだろうし、この人間は、なんというか、邪魔にならない。話していても、これだけ近付いても、不快ではない。)

「さっさと行こう。しかたがないから、僕が案内してやる」
「ほんと?」
「本当」

よかった。彼は案外、私にとっていいひとなのかもしれないなあ。デュエルでもないのにデュエルディスクを体の前に持ち上げて、そのまま歩き始める。だらりと手を投げ出している彼は、リラックスしているように見えた。心なしか、第一声より声音も優しい。
(デュエルディスクの中というのも、存外悪くはないような気がしたが、僕が作った世界と比べたら酷く狭い。やっぱり微妙かもしれない。不思議と、出て行きたくはならないが……。僕は、またこの辺りを一周しようとするこいつに「そっちじゃない」と声をかけた。「ごめんね」と最初に見た時より穏やかな表情で言った。)

「ありがと」
「どういたしまして」

しばらく歩いていると、また道を間違えたらしい。左に行こうとしたら右だと怒られた。それでも、彼は私のデュエルディスクの上でだらりとくつろいでいるのであった。とっくに、彼の世界からは抜けている。ここからならなんとかなりそうだが、なんとなく、私は黙って歩いていた。
(左であっていたのだが、右だと言ってしまった。まあ、右でも間違いではない。少し遠回りになるだけだ。もう僕の世界からは抜けたから、出ていってもいいのだけれど、こいつに何をしてもらうか決めていないからもう少し付き合ってやる。そう言えば、こいつ)

「なまえ?」
「ん?」

目を合わせると、まるでさっきの私みたいにぽかんとしていたから、思わず笑ってしまった。私はそんなに予想外の反応をしてしまっただろうか。
(反応されて、名前を勝手に盗み見たことを後悔した。感情の意味がわからくて間抜けになまえを見上げてしまった。いや、しかし、僕にはなまえが呼べるような名前はないのだから、このくらい一方的な方がよかったのだろう。)

「あなたは、なんだか面白いね」
「お前は、変なだけの人間だな」

それはたぶん、私の言葉と同じ意味なのだろう。
(これはたぶん、僕には理解できないのだろう。)
いい友達になれるかもしれない。
(ああ、おかしなものを見つけてしまった。)


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20180918:ウィンディちゃんナビ化計画。
 
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