買い被りかも/スペクター
あいつは恐らく、誰よりも強い。とは、リボルバー様の言葉だった。なるほどこの方が言うのならばそうなのだろう。そんな気持ちと、デュエルの腕はそれ程でもないのに、という気持ちが混ざりあっていた。
そんな時に、熱心になにか調べ物をするなまえを見つけた。先日のプレイメイカーとブルーエンジェルのデュエルの分析でもしているのだろうか。
画面を覗きみるのは美しくないなと、少し遠くから声をかける。
「なにか調べ物ですか?」
なまえはどうしてかビクリと震えて画面をぱっと消してしまった。そして、貼り付けたような笑顔でこちらを振り返り、首を振った。
「……ぜんぜん?」
「ですが、今」
「いや? もう全く???」
調べ物は、ろくでもないようなことだったらしい。吹けない口笛を吹きながら片付けをはじめる。元々彼女一人しかいなかった部屋だ。なまえが荷物をまとめると部屋の中はすぐにがらんとしてしまって、嫌に静かだ。
「ということはつまり、サボっていたわけですね」
「……まあね!」
そここそ否定するべきでは。
ぴし、と人差し指と中指を立てて胸を張る。調べ物の中身について教えてくれる気はないらしく、さっさと部屋を出ていってしまった。私はすぐに追いかけて隣に並ぶ。
……なまえは、誰に対してもそうだけれど、隣に並ぶと自分のポジションを少しの間見失う。やりずらそうに歩調が乱れるが、それでも数秒後には自然な距離感に落ち着く。
怖がっているようにしか見えないのに。
私はそれに気付かなかったふりをして、続ける。
「デュエルのこと、でしょうか?」
「だとしたら隠さなくてもね」
「そうですねえ」
「ヒント、デュエルのことではない」
「ははあ、もしかしなくても、バカにしていますね?」
「スペクター程じゃあないよ」
「おっと。それは光栄です」
ふは、となまえは怒るでもなく機嫌を損ねるでもなく、心底楽しいと言う様子で笑っていた。へんなひとだ。
が、よくよく考えれば、彼女が怒ったり落ち込んだりしているところを見たことがない。いつも、この組織に似つかわしくない浮ついた様子で、一人で勝手に楽しそうにしている。
「リボルバー様に関係することですか?」
「関係しない、かな。大したことじゃないよ」
「私には隠したくなるようなことではあるのでしょう?」
「いやあ、別に」
隠してしまったから、隠さないといけないような気になってるだけで。なまえは言った。なるほど確かに、そういうこともあるのかもしれない。私も真面目な推測ばかりぶつけていた。ここまで話したのだから、もう隠されたりはしないだろう。ストレートに聞いてみる。
「結局、なにをしていたのですか?」
「明日の晩飯どうするかなあみたいな」
つまり、調べていたのは料理のレシピ。真面目な顔でたった一人で何をしているのかと思えば。
「それは、心底どうでもいいですね!」
「そうでしょうとも」
なまえは豪快にからからと笑った。笑うところではないような。
「それで?」
「うん?」
「本日の夕食はどうなりましたか?」
どうでもいいが、ここまで聞いたのだから最後まで。なまえは腕を組んで、わざわざ足を止めて思考していた。
「んーーー…………」
私も、仕方が無いから彼女の横で足を止めて、どうでもいいと思っている答えを楽しみに待った。
「鍋」
「鍋?」
「そ。こう、大きい土鍋で」
「…………」
こう、となまえは言いながら両手で鍋の大きさを示していたが、どう控えめに見ても一人分の鍋の大きさではなかった。一家族分は間違いなく作れるサイズ。一人で食べ切るつもりだったのだろうか?
リボルバー様言うところの、なまえの強さについて知りたくて話しているはずだった。これもある種では強さであろうが、リボルバー様の言ったのは、こういうことではないはずで。
「スペクターも遊びに来る? 好きな鍋をご馳走しよう」
「あなたが、私に?」
「嫌かな」
「いいえ。喜んでご一緒させて頂きます」
リボルバー様の言葉を理解するために、行くことに決めた。一層恭しくしてやると、なまえはまた面白そうに吹き出した。
「スペクターのそういう所、面白くて好きだ」
なまえは、言うだけ言って、今度は手元の端末で、堂々と鍋のレシピを漁っていた。
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20180126:開き直って公然とセクハラしたりするみたいな話とかとても好き……。