ほしいもの/Ai


なまえはよく、遊作や草薙に菓子を差し入れたりしている。それがどうというわけではなくて。いや、それがどうという話になるのだけれど。
俺はどうにかこの思考のしずらさ計算の引っかかり方が、なまえのその行動にあると突き止めはしたものの、そこからどうするべきなのかはわからないままだ。
遊作と草薙は二人して何かの作業に没頭しているから今がなまえと話すには絶好のチャンスである。それなのに、絶好の、最良の、そして今この会話はあいつらには聞かれないのだと意識したら、どうしたことか、言葉選びが上手くいかない。出来の悪いロボットみたいにカクカクとした動きと思考。
俺はなまえを目の前にして、緊張、なんてものをしているようであった。

「Ai?」
「ん、な、なんだよ」
「いや、今日はやけに静かだから、ちゃんとそこにいるかと思って」
「いるに決まってるだろ、俺は、人質、なんだぜ?」

「それもそうか」となまえは笑って「遊作と草薙さんがそう簡単に破れるプログラムを作るわけもないし」と続けた。今度は思考の上に霧でもかけられたみたいな重さ。
結果だけを見ると、俺は、なまえが奴らのことを褒めたり構ったりするのが、気に入らないようである。
何故そんなことになっているのかわからない。
わからないが、さっきから、一つ言ってみたい言葉がある。散々、言っても構わない、不自然でないことを確認して、それから音声をなまえへ送る。

「なあ、なまえ」
「ん?」

声が震えていたかもしれない。まるで人間みたいに細かい感情が声の隅々に散りばめられて、これならなまえは、俺のことをわかってくれるんじゃないか。そんなことさえ考えた。

「……俺にも、なんかくんない?」

「俺みたいな超カッコイイAIに貢いでおくといいことがあるぜ」とどうにか続けてなまえを見上げる。
なまえは俺の言葉を真剣に受け止めて、いつもと同じ穏やかな笑顔をこちらに向けた。

「それもそうかもね。じゃあ、なにがいい?」

あ、しまった。
何をもらうべきか考えてなかった。
あいつらがもらえないようなものがいいけれど、ぱっと良い案が思いつかない。
だが、俺が困っていてもなまえは急かすでなく不思議がるでなく、ただにこにこと待っていてくれた。なまえのそばは、たいへんに居心地がいい。

「…………………なんでもいい?」
「叶えられる範囲でなら」

なまえは頷いて、俺は少しなまえに近寄った。

「ほんとに?」
「うん」

なまえは何度も頷いて、俺ももう少し距離を詰めた。

「ほんとのほんと??」
「いいよ」

俺はようやく覚悟を決めて、もう十分近いなまえにもっと寄れと手招きをした。
なまえにしか聞こえない距離で、気恥しさからすっかり音量の落ちてしまった声を届ける。

「それなら、なまえ」

の、時間が欲しい。


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20170903:(…………そうだけど、そうじゃない)
 
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