虚心坦懐、続/デニス


なまえは、相変わらずにレオコーポレーションで小間使いのようなことをしていて、僕は僕でエンタメデュエリストとして活動している。
案外時間が合わないのは、赤馬零児の仕業であると最近気付いて、なるほどやはりと、勝ち誇れば良いのか心配したらよいのか複雑だ。素直に祝ってくれていないという事だけわかる。赤馬零児がどんな気持ちを持ってそうしているのか不明瞭で、でもきっと向こうも、複雑なんだろうと予想した。
それでも今日は、なまえと会う約束を取り付けて、僕は待ち合わせ場所でちらりと時間を確認する。
待ち合わせにはまだ、三十分もある。
三十分。三十分したら、なまえは来てくれるだろう。

「……なまえと僕、か」

夢にまで見たその関係はこの手のひらの上に転がっている。手に入れてしまったのが未だに信じられずに、角度を変えて何度も確認するのだけれど、やっぱりなまえと僕との距離は他の人間と比べて断然近いのである(赤馬零児や零羅は除く)。

「私がどうかした?」
「え」

目の前に現れたなまえと、時計の示す時間とを何度か見比べる。

「随分、はやいね……?」
「デニスも」
「いや、それはほら、僕は」

なまえはこちらを真っ直ぐに見て、そしてゆるりと微笑んでいる。僕はすっかり慌てていたけど、そんななまえを見ると、だんだんと落ち着いてきていつもの調子で片目を閉じた。

「君だってこんなに早く来てるんだから、お互い様、だよね!」
「そうだね、楽しみにしてたから」
「……君はもうそんなことばっかり言って……」
「うん?」

「なんでもないよ」と、僕はなまえの頭を撫でて、そうしてまた勝手に、その感触にどきどきしている。彼女の髪を、こんなに簡単に触れる立場にいる。それを許されている。
自分の腕でよく見えなかったなまえの表情をちらりと覗くと、なまえは照れたような困ったような顔で俯いていた。今にも、「こんな時、なんて言ったら良いんだろうね」とか言いそうな。

「……こんな時、なんて言ったら良いんだろう……?」
「!」

なまえは、想像よりずっと深刻そうに呟いた。
予測が当たったことも嬉しいが、その深刻さが面白くて、つい耐えきれなくて吹き出してしまう。

「ははは! ホンットに君ってば面白いんだから!」
「……? そう……? それならよかった」

お腹を抱えて笑う僕と、きょとんと首を傾げるなまえ。そのうちに、なまえも目を細めてゆるく唇を開いて笑っていた。へらりとした笑顔には相変わらずの強さを感じて、僕はすっかり安心した。
この関係は、僕だけのもの。

「それじゃあ、少し早いけど行こうか」
「ん……」

なまえは、はたと僕の顔を見上げて「よかったら」と手を差し出して来た。おずおずと揺れる指先を見ていたら、がっと体が熱くなる。なまえにかける言葉も見つけられないまま、強くなまえの手のひらを握った。
なまえのこんな顔が見られるのは、僕一人、だ。


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20170828:デニスくん下さい(切実)
 
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