free,(1)/エド


出会った頃から彼女は自由で、何も考えていないような能天気さで。
しかし、ここ一番という時ははずさない、はずしたって笑って最高の出来事にしてしまう。もしかしたら彼女は、とんでもなく計算高い人なのかも知れない。
そんな第一印象からしばらくまでの僕の考察は当たっていて、そして、はずれていた。
彼女を完璧に形容する言葉があるとしたら、馬鹿みたいに前向きだと言ったところだろう。
遊戯十代に、むかつくことに少し似ていた。
そして、はじめこそ僕よりも奴の方が彼女と仲が良かった。
今はどうなのかと言えば、多少巻き返しはしたものの、僕は彼女をわかってきたが、十代は彼女を理解しているという感じで、やはり、まだ親密度で勝てているかと聞かれれば、そうである、とは言い難かった。
しかし、意味もなく隣にいることを許されたのは、僕の方だったのである。
つまり、僕とみょうじなまえは恋人関係にある。

「え? なまえ? そう言えば、今日は見てないわ」

あるのだが。
先程から何度携帯にかけてもなまえが返事をすることはなく、せっかくこのデュエルアカデミアにいるというのに、まだ、なまえの顔を見れていない。
教室に残っていた天上院明日香は今日は見ていないのだという。

「……授業に出ていないのか?」
「どうだったかしら、たぶん、そうだと思うわ」
「……わかった、ありがとう」

彼女達となまえは確か交流があったはずだが、些か淡白すぎやしないだろうか。
授業に出ていないとなると、体調を崩して寮にいる、という可能性も出てきた。
流石に入る訳にはいかないが、近くの生徒に彼女のことを聞いてみるとしよう。

「なまえ、いないようでしたわ」
「……」

寮でもない。

「なまえだと? 今日は見ていないが」
「なまえさんかあ、見たような見ないような、でも居場所はわからないかなあ」
「なまえ先輩は、またアニキと一緒に遊んでるかもしれないドン」

とうとう、レッド寮前まで来てしまった。
ここにいるとしたのなら、万丈目のところか、十代のところだが。
万丈目は今日はなまえを見ていないと言っていた。
ならば、十代のところへ……。

「あれ? エドじゃん! こんなところでなにしてんだ?」
「……十代か。なまえを探しているんだが、見なかったか」
「ああ! なまえなら今日は見てないぜ! そのへんにいないのか?」
「そのへんにいれば探さないだろう……」
「それもそーだな」

一体どこへ行ったのか。
これであと行っていないところと言えば、森とか山とかそういう場所になってしまう。
そうなると、たったひとりの女子生徒を見つけるのは難しいのではないか。
困ったものだ。
相変わらず携帯に着信はないし。
1度クルーザーへ戻るべきだろうか?
十代のことを放っておいて思案していれば、十代は自信満々な顔をして言った。

「森の方に行ってみたらいいんじゃないか?」
「なに?」
「適当に歩いてればそのうち会えるって!」
「何をいい加減なことを……。一体何の根拠があってそんなことを言っている!」
「え、勘だけど」
「バカな! もういい。もしなまえがここに来たら僕が探していたことを伝えておいてくれ」
「おう! がんばれよ、エド!」

言われた通りに森へ行くのも癪ではあったが、行くあてもなかったのだから丁度いい。
と、思うことにする。
ここは静かで、このあたりが学校の敷地内であることを忘れてしまうほどだ。
自然の、生き物の声が時折する。
歩いていると、ふと、人間の声がすることに気付く。
歌を歌っているようで、この声には聞き覚えがあった。
自然の音に耳を傾けていたけれど、彼女の声はちっともその鑑賞の邪魔をしない。
それどころか全部まるごと包み込んで、ただただ、柔らかい気持ちになるのである。
この声の主のことを、僕はもっとよく知りたいと思っているのだ。
歌声に導かれて進むと、やっとみつけた。

「ん?」

草を踏む音でこちらに気付いて、なまえはそっと目を開ける。
ふ、と笑う。
その姿が見たかった。

「授業も受けずに、こんなところにいたのか」
「あれ? 私って授業受けてなかったんだっけ? エド受けてた?」
「僕はさっきこっちに来たんだ。そしたら今日君を見た人がいないというから……」
「あー、それはごめん。でもエドも授業受けてなかったならよかったよ」
「……僕と君は学年が違うと記憶しているが?」
「いやいや、今日は合同で演習しててね。自由にデュエルして勝ち星数で順番をつけるっていう」
「そいつはおしいことをした、が、君は今日は授業を受けていないんじゃないのか?」
「受けた気がするけどね……」
「君のお友達は口を揃えて今日はなまえを見ていないと言っていたよ。それなら、君は今日誰とデュエルしたんだ?」
「え、してないよ」
「……何故?」
「見てただけだから。壁に張り付いて観察してた!」
「いくら得意気に言ったってそれは授業を受けていないと言うんじゃないのか?」
「あれ、じゃあもしかして欠席扱いだったのかな? そ、それはちょっとまずいような……」
「何をしているんだ君は……」
「んん」
「……行くか? 担当はクロノスだろう」
「んーー、ま! いいよいいよ! 1日くらいなんてことないって。明日はタッグデュエルで似たようなことするらしいし、なんとかなるよ!」
「ほう?」
「面白そうだからエド一緒に受けない?」
「そうだな、面白そうだ」
「だよね! 目指せ総合優勝!」
「おいおい、1体何人たたきのめすつもりだ?」

満たされていく。
なまえは笑っていて、僕も笑っていた。

(「な、なんだあのタッグ……!?」「信じられないくらい強い……!!」「に、にげろー!」「あはははは!」「なまえ、そんなことをしているとアイツが……」「ヒーロー見参! 勝負だ、エド! なまえ!」「ああああアニキ、あのふたりはちょっとおぉぉ」)

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20160709:たまには最初からある程度くっついてる話も書きます
 
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