YELL/Ai


「なんだか中途半端なデッキだなあ……」

私のデッキを解析し終わると、呆れたようにそう言った。私はうぐ、と言葉に詰まる。
遊作にAiを貸して欲しいと頼んで、草薙さんの店の近く。白い丸テーブルにデュエルディスクを置いて、私はそれと目を合わせる。

「……何があっても殴り抜けるがコンセプトなんだけど……」
「そのコンセプトとこのデッキ構成は矛盾している」

デュエルディスクに差し込んでいた自分のデッキを手元に広げて考える。ブラックホール、激流葬、ミラーフォース、光の護封剣……。果敢に攻めているのか守りたいのかわからない。保険で入れたカードの多さに消極性を感じる。
果たして、このカードたちに最後まで前を向いて戦おうという意思が宿っているか? もし回りが悪かったらということばかり考えていやしないか? 入れるべきカードは本当にこれか?
抜き身の刀のような強さと鋭さを得たい。

「苦し紛れに時間を稼いだって仕方ないぞ」
「そうだね……。もっとこう、どんな時でも攻撃に転じられるような……そんなデッキにしたい……。よし……思い切ってこのへんのカードは全部差し替えよう……!」
「正気か?」
「半端は良くない!」
「けど、このカードはこっちのカードと相性がいいから、入っててもそう全体のバランスを崩したりしないぞ」
「……デュエルモンスターズは難しい!」
「だから俺に相談しているんじゃないのか?」
「先生宜しくお願いします!」
「よしよし。先生がしっかり強くしてやるぞ!」

遊作とのデュエルが、最近負け続きであった。
それが今回Aiと対策を考えるに至った理由である。強い決闘者の友人は遊作くらいしか居ない。だが勝ちたい相手に相談しては戦略も何もあったものではない。故にAiに白羽の矢を立てた。「ちょっとデッキ見てほしいなあ」と言う私に「え! 俺!?」と驚きつつもAiは思ったよりもノリノリで私の相談に乗ってくれていた。
Aiのいう事はもっともで、その言葉のすべてに確かな理由があった。
私は一通り話を聞き終わると、拳を握りながら気合い十分な声音で言った。

「ありがとう! それじゃあその線で試してみるね! 打倒遊作!」
「え……プレイメーカー様を負かしたかったのか?」
「うん。最近負け続きでね……」
「ふ、ふーん……」

遊作であると、何かまずいのだろうか。
何か言いたそうに忙しなく視線を動かすAiの次の言葉を待つがきょとんと見つめる私と目が合うと、言葉はどこかにひっこんでしまうようだった。

「? じゃあ、行くね?」

デッキをケースにしまって、遊作にディスクを返さなければと手を伸ばす。指先がAiに少しだけ触れた時。

「ま、待った!」

「やっぱり待った」とAiは繰り返した。
私は立ち上がったまま指先だけを自分の体の横にだらりと戻して首を傾げる。

「どうかした?」
「どうかしたって言うか……えーと……そうそう! 効果のおさらいはしなくていいのか?」
「大丈夫だよ。後は自分で考えてみるね」
「う、そ、そう? それなら、コンセプトはぶれてないか?」
「うん。テクニカルに殴り抜ける!」
「そうだな、俺とそう決めたもんな……、えーっとあとは……」

どうやらこの先生は私のことを心配してくれているらしい。
相手は遊作で、そう気負うことも無いのだけれど、私も決闘者としてもっと一戦一戦に魂をかけて挑むような、そんな気持ちが必要なのかも知れなかった。
まあ、そう言うのもとてもかっこいいが、私の仕事ではないのである。私はただ意気揚々と目を細めて、できるだけ爽やかに笑って見せた。

「勝ってくる!」

ようやく、Aiと目が合った。
こちらを覗くAiは少しだけ落ち着いて、でもどこかそわそわとしている。言いたいことはあるのに言うべきか迷うだなんて、まるで人間のような空気で困りながら。それでも私に言葉をかける。

「大丈夫か?」
「うん」
「ほんとにわかる?」
「わかるよ」

私はなんだか面白くなってきて、喉の奥でこっそり笑う。
長くなりそうだ。私はもう一度椅子に座って先生の言葉を待つ。どうして引き止めているのか、私はどうしてこんなに楽しそうなのか。目を回しながらもAiはずっと言葉を探している。私がなんとなしに感じ取っているこれは、Aiの気持ちで間違いない? いつか答え合わせができる?

「うーん、それなら、いや待てまだアドバイスすることがあるはずだ……えーっと……あとは……」

まあ、楽しいから、当分はいいけど。

「なにやってんだ? あいつら」
「さあ」

(ただ、がんばれ、と送り出すことが出来ないまま)


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20170611:水曜日楽しみだね
 
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