これ以上は必要ない/Ai


俺はなまえを見て、それでもなまえと目が合わない時、俺はなまえの視線の先を追いかける。

「なにを見てるんだ?」
「ん? ほら、綺麗な空だと思って。飛んでいけそう」
「飛ぶ? 一体何が? わかってるとは思うけど、人間は空なんか飛べないぞ」
「んん、そうだね。ふふ、確かにそうだね。何がだろうね?」
「なんだそりゃ。なまえにもわからないのかよ! 必死に考えたのに!」
「あはは。そういうものだよ。人間って」
「Playmaker様みたいなことを言うんだな……」

なまえの視線の先には空があった。
色は青。
昨日よりは濃い青だ。
雲の色も形も昨日よりもはっきりしている。
それだけだ。
なまえは隣で何を言っても誰かみたいに黙っていろとは言わなくて、また空を見上げている。
曰く、飛んでいけそうな空である。
俺は少しだけ考える。なまえにとって今日の空は、綺麗なものであるらしい。

「今日の空は、綺麗なのか?」
「割といつだって綺麗だと思うよ」
「……? 綺麗な空、と飛んでいけそうな空、は同じ言葉じゃないぞ……?」
「Aiは難しいことを言うね……」
「む、なまえのほうがよっぽど難しいぞ! AIに優しくしろー!」
「うーん、と、そうだな……」

なまえはまた空を見上げる。
その口元は少し緩んでいて、目は細められて、困ったような言葉に反して表情は楽し気だった。
何が、面白いのだろう。

「空があんまり綺麗だから、もし飛べたら気持ちがいいだろうなってところかな……?」
「言葉が疑問系!! やっぱりなまえもわかってないんだろ!!」
「はは。まあわかるわからないはともかくとして、この話ってたぶんこんな風に掘り下げる話じゃなくてね」

なまえはゆるりとこちらを見た。
なまえの向こうに空が見える。

「私がなんとなく言った感想が、わかるか、わからないか、それだけのことなんだよ」
「ふーん? なら俺はなまえの言った『飛んでいけそう』がわからないから、わからないって言えばいいのか?」
「そうだね。そうしたら私は笑って、そっか、って言うから」
「……その会話、なんの意味があるんだ?」

なまえは盛大に笑っていた。
今にも後ろに倒れて転げまわりそうな勢いで、俺にはさっぱりわからない。
なまえにとって、今の話のどこがそんなに面白かったのだろうか。
どうして笑っているのだろう。
これも、さっきなまえが出した例みたいに、わからなくてもいいことなんだろうか。

「ふふ、今回の場合は、挨拶みたいなものかな?」
「また疑問系!!」
「うん。勘弁ね」

これ以上は何を聞いても無駄であろう。
きっと俺が求める答えを得ることはできない。
なまえはまーた空を見て、仕方がないから俺も空を見た。
雲が流れて、さっきよりも雲が多い。
そのうちさっぱり雲が晴れると、飛行機が雲を作りながら飛んで行った。
浮かび上がる白い線をしばらく見送る。
なまえに視線を戻すと、なまえも飛行機雲を目で追っていた。
同じものを見ていたらしい。
それだけだ。それだけのはず。その事実におかしなところは一つもない。
俺となまえは空を見上げていて、飛行機が横切ったからそれを目で追っただけ。たったそれだけのことなのに、ただそれだけではない気がした。今俺は、今なまえがどう思ったか聞いてみたくて仕方がない。どうやら俺の考えていることとなまえが当然とすることは違う。だからきっと、今回もわけのわからないことを言うだろう。わけのわからないことを言われるのは困る。そしてきっと、人間の細かい感情の動きは、人間同士であっても理解できないのだろう。聞いても仕方がないこともある。聞いたって答えにたどり着けないこともある。聞いても。聞いたところで。
だからこれ以上は必要ないのだ。
人間とAIの関係の上にはいらない会話。

「なあ、なまえ?」

でも、もしかしたら、今度こそはなまえの言うことがわかるかもしれない。
同じものを見ていたんだから。


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20170609:胸が苦しくなるくらいに好き。Aiちゃんが。
 
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