虚心坦懐(10_END)/デニス


子供達の相手を一通り終えると、壁の側で佇む少女を見つけた。
どきり、と胸が高鳴る。
ざり、と砂を踏むと、彼女はゆっくりこちらを見る。

「お疲れ様、デニスせんせ」

にっこりと笑う彼女は幸福そうだった。
遊矢について行ってしまっていると思っていたが、ここに残ってくれていた。
素直な気持ちで、彼女の側へ行く。

「ありがとう」
「ううん。あ、よかったら水飲んで」
「さすが、なまえってば気がきくなあ」

水の入ったペットボトルに口をつけると、思ったよりも体は水分を欲してたらしい。なまえの気遣いに改めて感謝しながら半分ほどを飲み干した。
そうして改めて、彼女と向き合う。
思ったよりも小さくて、僕は思ったよりも冷静でいられていない。
口をついて出た言葉は。

「エドの隣にいたね」

だった。
なんだそれは。

「え」

なまえも同じことを思ったのか、目をぱちぱちと瞬かせて僕を見上げている。いやいや、久しぶりに会えたっていうのに、しかも今は言葉に気をつけたりしなくてもいいっていうのに。
なぜはじめに言うことがそれなんだ。
そうじゃない。そうじゃなくて。

「デニス」
「は、はい!?」

ぐるぐると思考していると、なまえに名前を呼ばれる。あ、久しぶりなきがする。
驚いて姿勢を正すと、彼女は挨拶でもするみたいに言った。

「好き」

彼女は相変わらず、その瞳に迷いや曇りが一切ない。
彼女はいつだって、彼女の思いに準じて生きている。
僕にはない強さだった。
僕は結局、どれに殉じることもできなかった。
なまえは赤い頬を隠しもしない。両手を広げて、いつでもなんでも受け入れられるという雰囲気でもって僕の前に立っている。

「間違えて、ない?」

それなのに、僕はこの後に及んでこんなことを言っている。とうとう呆れられたらどうするんだ。
でも、きっと彼女は笑ってくれる。

「僕の、デュエルが、だったんじゃないの?」

怒ればいいのに。
なまえは両手を伸ばして僕の頬に手のひらを。
僕の情けない言葉に一瞬きょとりとしただけで、すぐに夢でも見ているみたいに優しく笑った。

「デニスが、好きだよ。デニス・マックフィールドが、大好き。もうずっと前から、本当に、好き」

彼女の心はいつも澄んでいる。
迷っても立ち止まっても、その心はいつも清く美しい。
強くてかっこいい。僕の憧れの女の子。
抱きすくめてキスをしたかったけれど、僕もこの少女みたいに、まっすぐに気持ちを伝えてみたい。
はじめてだ。
うまくいくだろうか。
いいや、うまくいかなかったとしても。

「僕のほうが、ずっと君を好きだ」

今までよく抑えてきたものだ。
いつの間にかこんなに大きくなって制御なんか効きそうにない。
覚悟して欲しい。

「ありがとう、全部の僕を、好きに、なってくれて。ほんとに、悪趣味なんだから。なまえは」

僕は、結構嫉妬深い。
できるならば、なまえの全てを理解したい。
そうしていつか。

「そうかな。結構いい趣味していると思うけど」

僕も、そんなことはわかっているよという顔をして君に寄り添うのである。


End
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20170227:ありがとう。デニスくんが大好きです。最後は勢いのみになってしまいましたがそれくらいに力がありました。デニスとゆうやのエンタメデュエル。最高でした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
 
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