ただの約束/ユーリ


理由はいろいろ考えられた、本当の事はわからない。
そしてそのまま、真意など誰もわからなければいい。

「こんなところにいたんだね、なまえ」

アカデミアの、端の端。
誰も来ないようなところに来て、なまえはじっと自分のデッキを眺めていた。
誰も来ないような、ではなく、実際なまえは自分の他に誰かがここにいる所なんて見たことがない。
彼も本来はこんな場所へ足を運ぶような男ではなかった。
しかし、それでもここに来たのは、ここにいる人間に用があったからだ。

「ユーリ……、こんなところでどうかした?」
「あーあ……。僕は君を探してたって言うのにその言い草はないんじゃない?」

冗談なのか本気なのか。肩をすくめて、わざとらしく寂しそうに笑った。
なまえは「ごめんね」と言って苦笑するが、そうすぐに謝られてしまってはやりづらいようで、紫色の少年、ユーリは少しだけ目を大きくしてから、そっとなまえから視線を外した。
そこからは、いつもの調子でうっすら笑みを浮かべて言うのだ。

「……ま、いいけど。なにしてたの? わざわざこんなところまで来て」
「デッキ調整、だね」
「へえ、デッキを」

すう、と、ユーリの目が細められる。
見極めるような薄暗い目だ。二人の間に漂う空気が少しだけ淀む。
なにか、機嫌を損ねてしまったらしい。なまえは少しだけ身構える。

「本当に?」

ぎらぎらと、ユーリの瞳はまっすぐにこちらを見ていて、なまえは少しだけ、言うべき言葉を考える。

「飽きもせずぼーっとしてただけのくせに」

見られていたらしい。
ならば、なにをしていたか、なんて質問に意味なんてないだろうに。なまえは思うが、事実なまえが適当な嘘をついた瞬間から、その質問はなまえの不誠実さを浮き彫りにする問となった。
なまえは、そっと息を吐く。
しまった。そう思っているようだが、あまり表情には出ていない。

「あー、まあ、精神統一もデッキ調整の内ってことにしてくれたらいいんじゃないかな」
「言い訳するくらいなら、そんな意味の無い嘘つかなければいいのに。大体僕は、君がデッキを調整してる所なんて見たことないし」
「もしかしたら、今からするところだったのかもしれないよ」
「へーえ? じゃあ今からやろうか」

なまえはまるで雲のように笑う。
掴みどころがなくて、弱みもみつからないようなゆるりとした笑顔だった。

「ごめんね。嘘ついて」
「許すわけないじゃん」
「そうだよねえ……」

なまえはさして残念そうな様子でもない。
ユーリはなまえの嘘を暴いたことにより優位に立った風である。
しかし、機嫌がいい、とはやはり違う。

「僕とデュエルしてくれるなら許してあげるけど?」

なまえが見せたほんの一瞬の瞳の揺らぎ。
ユーリがそれを見逃す事は無かったが、それが何であるかはわからなかった。
恐怖とは違う、わかったのはそれだけだ。

「じゃー、私は一生許されないね」
「はーあ……、つまんないなあ」
「まあまあ……。お腹も空いたしそろそろ戻ろうよ。なにか食べる? 作ろうか?」
「食べ物で釣ろうって? ふーん」
「いらない?」
「いるよ。でも、しばらくは許さないから」
「んー」
「なにそれ、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」

なまえはまだしばらくぼうっとしている予定であったが、未だにデュエルしろとうるさいユーリを軽く受け流しながら歩き出す。
何を作って機嫌を取るべきか、いや、機嫌なんてとれるのか。
なまえはしばらく考えていたけれど、まあどうでもいいかと肩を落とす。

「なまえ」

アカデミアの思想が肌に合わず、だが何か行動を起こすと言うわけでもなく、ひとりで劣等生をしていたのに、どうしてかこの少年に目をつけられてしまった。
なまえを呼ばれてその方向を見る。
ユーリは珍しく笑っていない。

「そうやってだらだらしてるのは勝手だけど、僕以外の誰かに負けたら本当に許さないよ」

そもそも、なまえはユーリとデュエルしたことなどないはずであった。
他の生徒とは何度かあったが、勝っても相手をカードにできない中途半端なヤツとして、最近はディスクを構えることすらない。
カードになりたい訳では無いが、ユーリと闘うことになれば、なにもせずカードになってみるのもいいかとぼんやり思っていた。

「あ、もちろん、無抵抗でカードにされるのも許さないから」
「なんか罪深いね」
「今更でしょ。なまえは何もしないんだから。このまま高みの見物なんてさせないよ」
「……」

そんなつもりはなかったが、彼にはそう見えていたらしい。
面白くなさそうにそう言ったかと思えば、次の瞬間には、感情があるのかないのかわからない笑みで笑っていた。
彼は意外と表情が豊かだ。
なまえは1つ息を吐く。

「わかった?」

ユーリの言葉に、なまえは静かに頷いた。

「わかった」

と、突きつけられた言葉をそのまま返す芸のない返事ではあったものの、ユーリはそれで幾分か満足したらしかった。

「ならいいよ。まあ、そうだなあ……、この前偵察に行った時、くだらない嘘で期間を引き伸ばそうとした事は許してあげる」

なまえは、諦めたようにふっと笑って。

「ありがと」

と、力なく言った。
ユーリはやはり、楽しげに笑っている。


-----
20160921:ユーリ回よかったぞ
 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -