20160906/クロウ


その日を俺は楽しみにしていた。
なまえと恋人になってはじめての誕生日で、なまえも前々から盛大に祝うからと言ってくれていた。
だが、瞬間にわかる、なまえはこういうイベントが苦手だと言うことが。

「おめでと」

その言葉には素直に答える。
なまえは何やら照れくさそうに笑っていて、幸せの極みと言う雰囲気。
その雰囲気に存分に浸かって俺も笑う。

「おう、ありがとな」

なまえは持ってきたでかい紙袋を漁るとその中からまた紙袋を取り出した。
それは当然俺に差し出される。

「取り敢えずこれ……」

なまえが、気合を入れて選んでくれた品だと思うと、ただただ嬉しくて、俺は早速その中身が気になった。

「サンキュー! 今あけてもいいか?」
「あ、えーっと、どうぞ。あとこれも」
「二個もあんのか?」

二個目、までならまだ素直に喜べたことだろうと思う。
が。

「これと……」
「……」
「あとこれ。それから……」

その紙袋はどうなっているのか。
まだ紙袋をあさっているなまえに、声をかける。
人に気を遣いすぎるところがあるとは思っていたが、これはどういうことか。
一週回って気遣いなんだかそうじゃないんだかわからない。もう無茶苦茶である。

「……なまえ」

流石に名前を呼んで暴走を止める。
なまえはきょとんとこちらを見た。

「ん?」
「用意しすぎだろ、これは」

折角だが、申し訳なくなってきた。
声をかけると、なまえはくしゃりと自分の後頭部に手を乗せて、少し下からのぞき込むようにこちらを見上げる。

「………やっぱり?」

そんな気はしていたらしい。
まあ、とりあえずやってみる、こいつはそういう女であった。

「いや、その、なんつーか、いらないとか嬉しくないとかって話じゃないけどな……」
「ごめん、選んでたら、つい」
「お、お前が謝ることじゃねえって! ただ、あんまもらっちまっても、俺はあんまり高いもん返してやれねえし……」

なまえは、悲しそう、ということも無く、ただただ申し訳なさそうに笑っていた。
悲しそうではなくても、寂しそうではあるかもしれない。
いやいや、こんな顔させたいわけじゃない。

「ったく、しょうがねーな」

悪い気はしないのだ。
このプレゼントひとつひとつを、俺の為にと選ぶ姿は想像しただけでにやけちまうし、ちらりと見えたプレゼントの中身は俺好みの品ばかりであった。
しかも、実用的なものが多い。

「ありがとな、嬉しいぜ」
「……うん」

俺が笑うと、なまえも控えめに微笑んだ。

「ごめんね」
「謝るこたあねーだろ、ったく……。にしても、いろいろ買ったな」

紙袋からはもう二、三個包みが出てきて、俺はそれを受け取るが、なまえはただそっと笑ってぽつりと言った。

「……こうしたいなと」

思って。
すくい上げるような優しい声に、俺は思わず言葉を失う。
すっと細められた目は控えめに言ってもきらきらとしていた。
なまえは続ける。

「誕生日おめでとう。来年はもう少し考えるから、また私に祝わせてください」

それからー。と。
なまえは自分自身に呆れ返ったように、それでも愛しさを隠せずに。
くしゃりと笑って言うのである。

「ごめん、この上ケーキとか作ってきちゃってるんだけど、大丈夫?」

本当に仕方ない。
明らかに用意しすぎだし、俺が悪いやつだったらどうするつもりなのか。利用されたらどうする。付け込まれたら、傷付けられたら。
もしかしたら、この暖かさと優しさに甘えて、俺もなまえを雑に扱ったりする日が来るのかも知れない。
きっとこいつは、そんなことをしても何も言わなくて。
俺がそれに気づく頃には、なんて、ああ、考えていたら涙が出そうだ。
手を伸ばす。
ああ、本当にこいつは。

「ありがとな」

大丈夫だ。
俺の事は、好きなだけ好きでいればいい。
腕の中で、もう1度、「おめでとう」と聞こえた。
明日から、俺もこいつの誕生日に何をしてやるか考えなければ。


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20160906:ついやりすぎる話を長く書きたい
 
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