贋作で半端物で欠陥品/ライトニング


あまり集団では動かない私達だが、私はよく誰かのところにいる。でも、そのうちふっと離れていって、誰の目にもつかなそうな場所に座る。闇のイグニスがよくそうしているように空と平行に寝転がって、手を伸ばす。手のひらを突き抜けて、光が降り注ぐ。データなんて、不確かなものの上に成り立つ私たち。だが、その中でも私は一際不安定であった。
皆が気付いているかは知らない。でも、気付いていなければいいと思う。せっかく隠しているのだから。時々、消えそうに、あるいは、最初からここになかったみたいに体が乱れる。
まだ平気だと思うけど、予兆があるのは安心だ。心の準備だってできる。

「まあ、私くらい、消えてもいいけど」
「良いわけがない」
「!」

体を起こすと、何故か、光のイグニスが近くの木から落ちてきた。そして這うようにこちらへ近付き、そのまま私の腰にゆるく頭突きをした。

「良いわけがないだろう」
「……なにしてたの、あんなところで」
「君の様子がおかしかったからな。見張っていた。そんなことより、先程の言葉を撤回して訂正しろ」
「あはは、ごめんね」
「撤回して、訂正しろ。言葉には力が宿るという考え方もある」

大丈夫だと思うけど、と笑い飛ばしてしまいたかったが、腹に巻き付く腕の力が強くて、文句を言うのはやめにした。その程度のことで安心できるのなら、望み通りにしよう。「前言撤回。で、なんて訂正したらいい?」光のイグニスはやや考えた後、私の正面に座った。仲間に見せるのとは違う、やや力のない瞳と目が合う。

「……私より先には消えない、と」

私は頷いて「君より先には消えない」と言った。言わされた、と言う見方もあるが、これは私が言った言葉だ。言ったからには、そのように努力してみよう。でも。どうだろうか。

「これでいい?」
「……………………………、いや、待て、おかしなことを言って私を狼狽させた件についても何か言うべきだ」
「んー、ごめんなさい」
「まったく」

ぶつぶつと文句を言いながら彼は私の真横に移動して膝の上に頭を乗せた。私が居なくなるのが嫌なら、私のデータを引き継いでしまえばいいのに、と思う。言ったこともあるのだが、光のイグニスはかなり長い時間考えてから「それは不可能だ」と言った。「百パーセント?」「百パーセント、不可能だ」そう続いたのを覚えている。

「……どう? 調子は」
「まずまずだ。君は?」
「私は見ての通り……、いたっ」

ぎり、と足を摘まれる。「君は?」「元気です」「嘘をつくな」光のイグニスはため息をついた。どうしろと言うのだろう。私はよくわからなくなって膝に光のイグニスを乗せたまま後ろに倒れた。空が明るい。しばらくそうしていたが、光のイグニスは飽きてきたのか起き上がって、私の上に馬乗りになる。

「重いよ」
「だろうな」
「重い」
「それはもう聞いた」

顔の横に手をついて、私の額と、光のイグニスの額とがごつりとぶつかる。空が見えなくなった。

「これは?」
「こんなことは、他の誰ともやっていないだろう?」
「ま、まあ……」
「ふふ」

笑っているから、楽しいのかもしれない。彼のシミュレーション曰く、私と一緒ならば彼が消えることは無いのだ。だから、安心感もあるのだろう。だが、私が先にいなくなったら、どう、なるのだろう。その可能性は考慮しているのか、いないのか。
……ちなみに、だが。
光のイグニスがやらないし、私にその話をする気がないのなら、私がやってみようか、と自分のこれからについてシミュレーションをしたことがある。
結果は条件により色々であったが、ただ一つの条件を追加すると、全てが同じ結果になった。条件は、光のイグニスの味方で居ること。私は妙に納得した。やはりか、とすら思ったのだ。

私は、その条件下において、必ず彼より先に消滅している。じゃれつく彼の体を撫でた。守れるとしたら、一度きり。その後のことは知りえない。
どうか、彼に気付かれませんように、と目を閉じた。


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20190803:間違えている。お題箱「「贋作で半端物で欠陥品」より」
 
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