夢の果て(後)/Ai


自分から死を選ぶことはできない。前を見て、どうにかこうにか日々を生きる。すると、人間というのはひどいもので、なんとかなるような気がしてくる。はじめから、なかったみたいな気がしてくる。
想いが、風化、しそうになる。
そうなっていく心が何より怖くて、そして誰にも話せなかった。



ふと、ロボッピでは無い誰かの気配を感じて一人で確認に来た。もしかして、と思っていた。
だが、墓の前でぺたんと座り込んでいたのは、イグニスではなかった。「なまえ?」無防備に振り返ったなまえは、素直に涙を流していた。……訂正する、なまえはイグニスではないが、同じ世界で遊んだ仲間だ。

「……え、あ、あい……?」
「おう、久しぶり」
「……わ、私、イグニスは全部消えたって、」
「あん? 誰だそんなこと言いやがったのは。Ai様はこの通り、ピンピンしてるぜ!」

まあ他のやつは、と、俺がちらりと目で示す。なまえは涙を流しっぱなしにして俺に言う。

「ホントに?」
「ほんとだって、ほら、いつもの俺だろ?」
「違う、そうじゃなくて、……本当に、元気?」
「あー……、そっか、そっちか……、んー……」
「……」
「まあなー、そう、改まって聞かれると……」
「……」
「……嘘」

なまえは、無言のまま、今度は俺の為に涙を流す。「あー、ほらほら、もう泣くなって」なまえに触れて思うのは、ウィンディへの引け目のようなものだった。この役目は、永遠にアイツのものだと思っていたのに。

「元気じゃなくても、生きててよかった。私がこんなこと言うの、おかしいけど。Aiだけでも、無事でいてくれてよかった」
「バカだな、ここは、キレてもいいところだぜ? 俺は皆を助けられなかっ、」
「私は、止めようとも、助けようともしなかったから」

鏡のようだ。俺達が抱えているものは、きっとすごく似ている。「この話はやめとくか」俺が言うと、なまえは少しだけ笑った。

「責めてくれてもいいよ」
「そうだな、お前が最初に俺を責めてくれるってんなら、俺もそうするかもな」

「優しいなあ」となまえが立ち上がるから、それはお前だろと俺は言った。お互いにありがとうともごめんとも言わない理由は、なんとなく共有出来ていた。俺も立ち上がって、隣を歩く。

「リボルバーとは仲良くやってんの?」
「……聞いた? 全部」
「全部は聞いてねえけど、知り合いだったんだよな? 思うところがないわけじゃないだろ」
「……、……、仲良く……」
「なんだよその顔」
「……いや……なにも……」
「いやいやいや、全然何もって顔じゃねーし……、もしかして、告白でもされた?」
「……」
「エッマジ」
「…………」
「はえー、あのリボルバー先生がねえ。大丈夫か? 寝てる間に体に変なことされてない?」
「こっ、怖いこと言わないで……」

なまえが感情のまま身体を震わせるのが面白くて、冗談だって、と笑っておいた。久しぶりに笑った気がして、やっぱり、どこか鏡みたいに笑うなまえも、同じならいいと願った。
しかしリボルバー先生が、なまえを。そりゃ、また、なんつーか。俺は、ウィンディとなまえの様子を思い出しながら心の中で手を合わせる。これから先のことはわからないが、今はどう頑張っても勝ち目がなさそうだ。

「ところで、Aiは、プレイメイカーと一緒に居なくていいの?」
「んー、んん」
「あ、れ……? ごめん」
「いや、いいんだけどさ。お前はなんか用があってここに来たのか?」
「私は、……、じっとしてると、どうにもダメで」
「はは」

わかる、と俺は言った。本心からの共感だったことは、きちんと伝わっていたみたいで、なまえはまた泣きそうになりながら「ね」と応えた。
俺たちはしばらく思い出話に花を咲かせたり、世間話をしたり、お互いにこれからどうしていくのか、話をした。俺はまた来いよ、と言ったのだけれど、なまえは、リボルバーに居所が知れるのは、きっと俺にとって良くないことだから、と首を振った。でも。

「ネットワークの世界で偶々、会ったら、その時は」

俺が頷いて手を振ると、なまえは、人間の世界へ帰って行った。


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20190721:ね。
 
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