仮想現実/ウィンディ


「どう思う?」流行りの恋愛映画を見終わった後に、ウィンディが言った。(当然だがAIは料金を取られたりしないので、一人分の金額でデートができてとってもお得である。)「面白かったよ、ウィンディは?」僕には、と彼はどこか遠くを見つめて、それからゆっくりと私を見た。「いや、よく、出来ていたと思うよ」なんとなく、話が噛み合っていない気はしたが、先に外してしまったのは、多分私なのだろう。

「……羨ましいとは思わないのか」

お互いしばらく黙っていたが、適当に入ったカフェで頼んだコーヒーを持って一人用の席に座ると、先の質問を更に掘り下げられた。人間同士の恋愛が、羨ましいかと聞かれたのだろうか。私は、はは、と笑ってみせた。羨ましいか。羨ましいか、か。

「……」

どう伝えるのがいいのだろう。そっと目を閉じて考える。彼が傷つかない答えはなんだろう。ついでに私も傷つかないといいけど、そんな都合の良い言葉はあるだろうか。

「羨ましくは、ないかな」
「何故?」
「何を羨ましがればいいのか、イマイチわからない」
「ふうん、そんなものか」
「そうだよ、それにほら、あの主人公、タイプじゃないし」

「ははは」とウィンディが声を上げて笑った。よかった。けど、この手の問答はいつも冷や冷やする。もし、羨ましいよと答えていたらどうなっていたのだろう。正しい答えがないし、別れる理由にするには都合が良すぎる。繋ぎ止めるものはお互いの意思しかないのだ。ああどうしてくれるんだろう。羨ましいか、なんて聞かれたせいで割と不安だ。「そうだな、」ウィンディが私の冷たい指先に触れる。

「僕も、あのヒロインはタイプじゃないな」

そんなに面白いことを言ったかな、と思ったが、なるほど、言われて初めて気付いた。あれは上等な映画だった。キャストも演技も最高だった。だと言うのに。
私もようやく心から笑う。私たちは、現実と虚構とを繋ぐ赤い糸が脆いことを理解している。


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20190714:告白だそれは
 
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