パラレルワールド/スペクター


世のカップルと同じように、不安になる資格はあるのか、などと考えていた。多分好かれてはいるだろう、程度の認識はある。ただし、この男には私とは別に大事にしているものがありそうだ。私はと言えば生きているついでに構われている程度で、だから、1番には成りえない。つまり、んん、やはり、と言うか、そこまでわかっているせいで、何に悩んでいたのかわからなくなった。
私は奴とどうなりたいか、私がいちばんわからない。

「危ないですよ」

考えながら歩いていたら、赤信号を止まれの色だと認識できなかった。肩を掴まれて足が止まる。「ああ」

「ありがとう」
「気を付けてください。私がいなかったら死んでましたよ」

やれやれ、とスペクターは笑うが、掴まれた肩が異様に痛む。もう大丈夫なのだけれど、この力の強さは私を止めようとした気持ちの強さだろうかと考えて無言になった。「……はっ」無言になった後、馬鹿らしくて自分の思考を嘲笑う。
あまりにも自分の感情を隠さないせいで、スペクターは目を丸くして私を見下ろした。

「……考え事でも?」
「まあ、大したことじゃなさすぎることだから」
「そうですか。何にせよ、貴女が悩みを私に黙っているなんて珍しいこともあるものですね。私以外に相談する相手居るんですか?」
「居ないけど、しょうがないでしょ、君のことなんだから」

今度はしっかり信号が変わったのを確認して道を渡る。せっかく青になったのに、スペクターは道の端でぼうっと突っ立っていた。
仕方がないから私も戻って、スペクターの目の前でひらひらと手を振る。

「なに? 大丈夫? 急用?」
「ああ、いえ、なんでもありませんよ」
「そう?」

そうです、ところで、とスペクターは動こうとしない。信号が点滅し始めた。

「私の事、と言いましたか?」
「あん……?」

私は二秒考えて、点滅している信号に向かって走り出す。至極楽しそうに心の底から嬉しそうに、ただひたすらに愉快そーに笑うスペクターを見たからだ。底意地の悪さが滲み出ている。

「言ってない! 気のせい!」
「ならば何故逃げるんですか?」
「追っかけてくるからでしょう……!」
「子供の時から一緒に居ますが、こんな風に遊ぶのははじめてですねえ!」
「面白くなってんじゃないよ! て言うか早いなちくしょうなんだこれ!」

私はどうにか次の信号まで逃げたのに、赤信号で捕まった。
私を捕獲する際に、他の人間の目など一切気にせず首に巻きついてきた腕は、やはり、なんというか、不安になるようなことは一つもない気がした。


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20190611:仲良くさせたかった。
 
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