LOST&LOST(9)


ひどい顔だ、朝起きるなりそう思った。私の顔の話ではない。昨日の雨雲は夜の間に通り過ぎて、柔らかい朝日がカーテンから滲み出している。そんな暖かな穏やかさとは正反対に彼はいる。了見は、じっと、私の顔を見下ろしていた。

「……ごめんね」

心の底から悔いて、全てを撤回させてもらいたい、訳では無いが、こんな顔をされたら流石に謝罪のひとつも言いたくなる。
純粋に、悪いな、と思う。私が起きるのを待っていた家族だとか、死体みたいな私の世話をしていたことだとか、十年経っても大事な友人だと思っていてくれたことに対して、悪いな、と。
そんな人がいるのに、いなくなりたいなんて思うべきではないこととか、今、私のことを私より考えている人間に、殺せばいい、などと言ったこと。

「ごめん」

随分冷静になってきた。皆に会えないのは寂しくて、さよならも言えなかったことはつらいけれど、無理矢理にでも前を向いて日々を生きた方がいい。もしかしたら、私ががんばっていたら、また、会う方法も見つかるかもしれない。希望を捨てずに、立って、歩く。起きてしまったことが巻き戻ることはない。

「夢を見た、」

了見が言う。声が震えてハッキリしない。こちらに向かう視線も虚ろだ。ただ、その最奥にある一つの願いを、私は、聞かなくてもわかっていた。

「お前が、その窓から飛ぶ夢だ」

じっと声を聞いている。

「何をしていても構わない、私にできることなら何でもしよう」

なまえ、

「……生きていてくれ」

生きていたい、と、心の底から思えるかと聞かれればまだ怪しい。了見の言う何をしていてもいいから、も、何でもする、もきっと本心とは少し違うのだ。
いつかウィンディに再会した時、下を向いてたんじゃ格好がつかない。そう思うと、重くてたまらなかった腕が上がる。

「なまえ……?」

明確なことは何一つ言えないし、誇れるような夢もないから、私は無言で了見の頬に触れる。生きていたくない、これも私だし、前向きにしておきたい、こっちも私だ。
柔らかく髪を撫でると、彼は泣いているように見えた。

「私は、大丈夫だよ」

10年前にも彼に言った言葉は、果たして、どう、了見のなかに響いただろうか。


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20190608:なんとかなれ
 
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