LOST&LOST(7)


病室に入ると、なまえは無表情のままでこちらを一瞥する。
体にも精神にも異常は見られない、と医師は言うが、明らかに、なまえの、中心には胸の幅と同じくらいの大穴が空いている。
その大穴がなまえを分断してしまいそうで、なまえを飲み込んでしまいそうで退院させる気にはならなかった。
監視など必要でないことは理解している。なまえは、例えば、ネットワークの世界でイグニス達の残骸を捜しまわることはあれど、他を巻き込んで世界をどうこうしようなどと愚かなことは考えないはずだ。いや、考えたとしても、実行はしない。

「なにか欲しいものはあるか」
「……」

答えは返ってこないとわかっていたが聞いてみた。ただ、少し前まではなんの反応もなかったのだ。手を握っても顔を触っても、ーーーー、当時呼吸だけをしていた唇に、私が唇を重ねても。
それが、声をかければ返事があることもあるし、なくても何かしらの反応はある。恋焦がれていた両目がこちらを見ると、胸の当たりが激しく痛む。

「……」

沈黙の中で、この動揺を悟られないように深く長い呼吸をする。

「ほっといて欲しい」

疲れたようなこの返答も予想していた。しかし、それだけは聞き入れられない。私は明日もここへ来るし、監視と銘打ってしばらく居座る。

「それは無理だ。そうだな……、せっかく戻ってきたのだから、なんでもいい。食べたいものでも、見たいものでも、したいことでも」

私もなまえも、堂々巡りだと理解している。私がなまえに、言わないことがあるように、なまえも私に気を使って言わないことがある。
ただ、忌々しげに眉根を寄せるから、言いたいことはすぐにわかる。すなわち、人間になんて戻りたくなかった、と。


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20190607:とは言っても機嫌取りに行ってしまう
 
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