LOST&LOST(6)


カメラが映し出す映像さえも、暗澹としていて晴れる日はない。目を開けると体を起こして、天気がいいと窓を開ける。それくらいしかやることがないせいで、すぐにベッドに戻って、ぼうっと花瓶を眺めるのである。
花が風に揺れると泣きそうに目を細めて少しだけ笑う。そんな笑顔が見たかったわけではない。こんなことなら、花など持っていかなければ良かったと、思うのだが、なまえがせっせと世話をするせいで、まだまだ枯れる気配はない。
最近は、とうとう病室に缶詰になっているのも嫌気が差してきたようで、ふらりと外へ出ていくことがある。病院の敷地内からは出ていかないが、屋上に居るとゾッとする。
全身を風に煽られる彼女は、いつ風に任せて落下していっても不思議ではない顔をしている。きっと、落下する瞬間は笑うのだろうとも思ってしまう。
あまりに恐ろしいものだから、大人しくしていろ、と強く言うと「私は人間以上のことなんてできないよ」と呆れられて、ベンチに座っている時横に座ってみると「わざわざ隣に座らなくてもいいでしょう」と突き放された。
その忍耐には恐れ入る。イライラしたり、面倒くさがったり不機嫌だったりはするくせに、一度も大声で泣き叫んだことは無い。

「彼女の調子はいかがですか?」

スペクターに問われて首を振る。ダメだ。相変わらず暗い顔をしてぼーっとしている。一つずつ話をするとスペクターは丁寧に相槌を打って笑う。「それはそれは」なまえのことは、誰よりわかるつもりでいたのだが。

「いっそ、全部素直に話してみては?」
「……、全部とは、どのあたりのことだ」
「例えば了見様のお気持ちですとか」
「とっくに気付かれている」
「それは、了見様の全ての気持ちをですか?」
「いいや、……全てということはないだろうな。十年は長い。それまで、なまえはサイバース世界に居て、私とは話をすることもなかったのだから」
「監視、という名目だから冷たくするしかないのではないかと思うのですが」
「……そこは変えられない。事実あいつは光のイグニス側についていた。風のイグニスに誘われたからと、ただそれだけの理由でだ」

ただ、しかし。「ですが、了見様」スペクターの言う通りだ。「なまえ様が起きるのを、心待ちにしておられたでしょう?」何度も何度も夢を見た。
いつか、いつかなまえが目覚めたら、また、昔と同じように了見、と呼んで笑って、年相応に自然な距離感で友達でなくなる日を。
私はただ、モニター越しでなまえを見つめる。苦しそうに花を見つめる目は、十年見ない間に、随分、美しくなった。


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20190603:通称、地獄の、了見ルート
 
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