LOST&LOST(5)
十年前。鴻上博士、つまり、鴻上了見の父の実験に協力していた。当然のように了見とも仲が良くてよく遊んだ。その内容は、覚えていたりいなかったりだ。細部は飛んでしまっているのだが、実験中の事故で私の意識と、AIの意識とが融合してしまい、しばらく電脳世界をさまよっていた。
ふらふらしているとサイバース世界に倒れていて、そこで、彼らと会った。私があまりに何も知らなくて間抜けそうで無害そうだったからか、サイバース世界にいることを許されて、そのうち、イグニス達は私も仲間だと言ってくれるようになった。
私はただ、ここでみんなと平和に暮らしたいと願っただけだった。
私はただ、私はどうなってもいいから、みんなだけは無事であって欲しかった。
「こんな所にいたのか」
鴻上了見の声が聞こえた。そばに来たのだろうけれど、顔を上げるのが億劫だった。私は病院の敷地内の日陰になっている場所でシロツメクサを一本摘んで、くるくると手で遊ばせていた。
病室はなんだか牢屋みたいだし、今日は天気がよかったから、外に出てきた。
「……もう、戻るよ」
そうか。と、了見は言った。
私は、ライトニングとウィンディについて行ったけれど、結局一度も戦うことなく戦線を離脱。人間と対立しておいて、戻ったのは人間の姿。
溜め息が出る。どの面下げて、私はここに居るんだろう。
「……」
いいや、私が堂々と戻れる場所など、もうどこにもない。
「なまえ、」
だから、いっそ、なにもなければよかった。許してくれようとしているのが困るし、傍に居ることを望んでくれているのが痛い。
「行くぞ。今日は冷える」
差し出される手を一瞥してから立ち上がる。手は取らない。罪悪感はもちろんある。
鴻上了見は明日もきっと来るのだろう。
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20190603:大切なものの比重