G運命とは違う


もっと素敵なものである、と漠然と思っている。運命であれば、こんなに憂鬱になる余地はなく、待ち侘びたように恋に落ちるのだと夢を見ている。
だから、野菜を吟味する私の隣でそわそわとしている穂村尊はいい加減に、いい加減に、いい、加減、に。私のことなど諦めて次へ行くべきなのである。
何か言いたそうではあるが、何も言ってこないので人参とピーマンをカゴに入れて歩き出す。あと冷凍食品と卵と醤油も切れかかっていたかな。

「持とうか」
「大丈夫」

スーパーの前で見つかってしまってこの様である。私はため息用に吸い込んだ息を溜息に聞こえないようにゆっくり吐き出す。いっそストーカーなのでは、などと穂村尊を見上げると、当然のように目が合った。しばらく見上げていると、面白いくらいに狼狽えて言う。

「え、ど、どうかした?」
「どうもしない」

面白い、などと思ってはおしまいな気がして目を逸らす。買い物はもう終わりだ。帰ったら着替えて夕食を作って早めに風呂に入る。うん。少なくとも明日、明後日は出会わないはず。
なんと言っても学校が休みなのだから。そう考えると、まあ今くらいはいいかと言う気持ちになる。
会計を終えて、店の外に出る。
私は振り返りながら、「じゃあ」とだけ言ったのだが、いざ穂村尊の顔を見ると、嫌な予感がした。
眼鏡の奥の瞳が、嫌に熱を持って煌めいている。「っ、」思わず、押し黙る。

「明日、俺と遊びに行こう」

俺、といつもと違う一人称が少し気になる。が、なるほどそっちが素なのだろう。何かを思い出しかける。最近ネットのニュースかなにかで。

「11時に、駅で待ち合わせして、映画とか、飯とか……!」

ぱち、と彼の周りに火の粉が散って見える。格好だけしか取り繕うものがなくなった彼の言葉は、口ではなく頭ではなく、もっと奥、魂、のようなものからの言葉である気がした。
風がこちらに吹き付ける。まるで彼を後押しする熱風だ。頬の高いところが熱い気がして目を細める。
火傷しそうにあつい。
これは、ああ、そうだ、あれだ。
あれに似ている。

「ソウルバーナー、だっけ」
「……はっ!?」
「今の君、あの人みたいだね」

ふ、と笑って、踵を返す。
案外本人かもしれない、とも思うが、どちらでも良いことだ。私は言葉を失う穂村尊を置いて一人で歩いていった。
家に帰って、風呂に入っている時、ようやく、あのデートの誘いになんの返事もしていないことに気が付いた。
しまった。


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20190315:「どうだった?」「どうだったんだ、尊。あれはどういうことだ?」「なになに? またなんかカワイソーなこと起きた?」「わっかんねーよ、なんだったんだ……」「……」「尊、ホットドッグ食べるか?」「食べますけど、お前ら目を見合わせてそっと慰めモードに入るのやめろ! まだわかんねえから!」
 
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