F「彼とはどうなったのですか?」


ところで、彼とはどうなったのですか。前にあった日からそう時間は経っていない。私とどうにかなる可能性のある男、などそう居るものでもないけれど、それだけでわかってしまうのが嫌だったから、わざわざわからない振りをする。

「彼って?」
「おや、わかりませんか? 穂村尊ですよ。言い寄られているのでしょう?」
「え、言い寄られてはない……」
「そう思ってるのは貴女だけですよ」

この男は、所謂幼馴染というやつだ。出身の施設が同じで、私もこれも同じ施設内で唯一ギリギリ友人と呼べそうな関係を築いてきた。
今はまあ普通に友達だ。この男、何年か音信不通になっていたのだが、偶然街で再会して以来定期的にお茶を飲んだりご飯を食べたり交流がある。

「苦手だよ、あの子」
「そうでしょうね」
「多分向こうもそれは気付いてると思うんだけど」
「ああいうタイプは諦めが悪いですよ」
「……憂鬱だ」
「その調子で跳ね除け続けたらいいのでは? 貴女のことです、中途半端に情をかけてはっきり嫌がったり言葉にしたり、していないのでしょう?」
「……平和で静かな日々に戻りたい」
「いっそ付き合ってみるのはどうです?」
「最近考えすぎてちょっと胃が痛い」
「私の話を聞いていますか?」

私は、きいてる、と答えてテーブルにぴたりと頬をつける。冷たい。
からん、とアイスコーヒーの氷が揺れた。

「……あとはそうですねえ。恋人を作ってみる、とか」
「そんな簡単に出来るもんじゃない、一番現実的じゃない」
「私でどうですか? 仮にでも」
「仮ねえ……、いいよそこまで気を使ってもらわなくても。私は君とは友達でいたい。これ以上気持ちのはけ口がなくなったらとうとう私は学校にいかなくなる」
「……それは残念」

はあ。
ため息をついて重たい頭を起こす。奴はいつも通りに笑っていた。これを恋人に、か。穂村くんよりは安定感というか、静かに過ごせそうな感じはするが、私は残念ながら、これと友達になれた理由がわからないし、これがまだ私と友達を続ける理由もわからないのである。
平たく言えば、何を考えているかわからない。その点、穂村尊はわかりやすいなあ、などと、この時確かに思ってしまっていた。
それに気付いた時、盛大に溜息が出て、胃のあたりが痛んだのだった。


-----------
20190312:可能性の話
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -